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2015-05-04 23:39
(連載1)被爆体験に言及しなかった安倍総理
角田 勝彦
団体役員、元大使
4月26日から5月3日まで9日間の安倍総理の米国訪問は無事終わった。国賓級の歓待を受け、安保・経済面を中心に多くの成果を上げたと自負する安倍総理は、意気揚々と帰国した。数日休養されると聞くが、ごり押し継続は健康にも影響する。少しゆとりをもたれてはいかがだろうか。とはいえ4月29日の米議会演説で、安全保障関連法案の成立を「この夏までに、必ず実現」すると述べたことが示すように、9月自民党総裁再選が見えた一強総理として、多くの反対を押し切っても所信を貫く安倍総理の意図はますます明らかになった。その所信とは、一言でいえば「戦後レジームからの脱却」、ひいては憲法改正である。この考えはいわゆる歴史認識問題とつながっている。米議会演説でも、さきの大戦への「痛切な反省」や「深い悔悟」、「アジア諸国民に苦しみを与えた事実」といったことばは使ったが「侵略」「植民地支配」や「おわび」は使用しなかった。これは関係する中韓のみならず、米国の一部から「歴史修正主義者」と批判された。ただし米国へ向けての演説だから「侵略」「植民地支配」「おわび」は場違いで、使わなかったとの説明はできよう。
安倍総理の米議会演説には、もっと大きな問題がある。それは原爆被爆70年に触れなかったことである。28日のオバマ大統領との首脳会談のときには「核兵器不拡散条約(NPT)に関する日米共同声明」が発出されている。岸田外相は27日午後、国連本部で開かれている核拡散防止条約(NPT)再検討会議で演説し、「被爆地の思いを胸に、核兵器のない世界に向けた取り組みを前進させる」と述べた。安倍総理が米議会演説で、同じ趣旨で広島・長崎に触れてはいけなかった理由はあるまい。遠慮としたら度が過ぎた。オバマはむしろ歓迎しただろう。
安倍総理の所信との関連で今年夏に発表される「戦後70年談話」が注目されている。全世界向けメッセージである。今度こそ被爆70年への言及を忘れてはなるまい。今回の安倍総理訪米のハイライトはオバマ大統領との首脳会談と米議会演説だった。4月28日のオバマとの会談では、27日ニューヨーク国連本部で5年に一度の核拡散防止条約(NPT)再検討会議が始まったことにも鑑みてか、「日米共同ビジョン声明」と「より繁栄し安定した世界のための日米協力に関するファクトシート」とともに「核兵器不拡散条約(NPT)に関する日米共同声明」が発出された。首脳会談では、北朝鮮やイランの核問題は話し合われたが、NPTはこの声明にゆだねられたようである。
問題は、29日の米議会上下両院合同会議演説で、過去の戦争の記憶に触れること少ないのみか、我が国が平和国家として歩むことを決意させた被爆体験に言及しなかったことである。「かつての敵は今日の友」は良い。また、米国の原爆投下を責めるものでもない。しかし、安倍総理が強調する「国際協調主義にもとづく積極的平和主義」と「希望の同盟」の前に「被爆経験に基づく平和への決意」を確認すべきではなかったろうか。米国の原爆投下について米国人の56%が「正当化される」と答えている(本年2月の米調査機関ピュー・リサーチ・センターの世論調査結果)から遠慮したのなら、米議会、すなわち米国民、さらに全世界に直接我が国の平和への熱望を訴えるせっかくの機会を取り逃がしたものとみるべきであろう。(つづく)
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