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2014-07-27 11:26

(連載2)裁判員裁判そのものを否定した最高裁判決

苦瀬 雅仁  公務員
 もちろん、三審制を取っている以上、最高裁が必要に応じて下級審の判断を覆すのは当然許されるのではある。しかし、下級審の判断を覆す以上は、当然のことながらその理由を積極的にかつ明確に明らかにする必要があり、特に、本件は裁判員裁判の判決であるというだけでなく、刑事訴訟法上の上告理由がないと判断されたうえで411条により例外的に原判決を破棄するものであるから、特段の必要がなければ原判決を破棄すべきでなく、破棄する以上は同条が規定する要件、すなわち「原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認める」理由及び「刑の量定が甚しく不当である」ことを具体的、説得的に説明すべきものである。

 それでは本判決が、それらを十分に述べているであろうかというと、そうは言い難い。本判決は、結局のところ過去の量刑との比較において公平性が必要であることを主たる理由としており、それ以上の具体的、説得的な理由を示していない。すなわち、過去の量刑自体の実質的妥当性についても、今回の量刑自体の実質的不当性についても、具体的、説得的理由を示していない。要するに、過去の量刑の傾向を尊重すべきであるということが理由であり、今回の事案に関する実質的な妥当性を検討していない。この程度の理由で裁判員裁判の量刑を覆すことは、最高裁自らが裁判員裁判の判決を尊重せよと言ってきたこととも整合性を欠き、実質的に裁判員裁判の正当性を根拠づけるわずかな部分も否定することになる。また、刑事訴訟法第411条の解釈上も安易に過ぎる判決といえるであろう。また、過去の量刑の傾向を尊重することをこのように具体的理由を十分示すことなく義務づけてしまえば、不当に軽い量刑であると認められる場合であっても、過去の量刑の考え方を改めることが困難になり、結局現在及び将来の適切な量刑判断を否定することにつながるものである。

 以上のような理由から、本判決は不当である。裁判員裁判に対する態度としても、最高裁として自己矛盾であると思われるし、具体的、説得的な理由を述べるべきであるということに関しても、自己矛盾のように思われる。なるべく早い機会に再び同種の事案が最高裁において審理され、本判決が覆されることを望むものである。

 なお、裁判員裁判については、裁判員の選定の結果的な偏り等に起因する不適切な判決内容が懸念されうるものであるが、これまでのところそのような懸念が現実化して大きな問題が生じたことはないように思われる。しかし、裁判員の負担等の問題が多いこと、審理期間の短縮により証拠調べ等が変質していること等を含め、問題は多く存在している。そもそも制度自体が憲法違反であることも依然変わっていない。したがって、裁判員裁判を行う以上は、その市民判断による適切な量刑等を尊重すべきではあるが、そもそも問題の多い裁判員制度は、憲法を改正しないのであれば廃止すべきである。また、量刑に関しては、不当に軽いこれまでの傾向を改める必要があり、そのためには、裁判員制度が存続しようとしまいと、刑事裁判官や関係法曹全員が、望ましい量刑の在り方を多面的に追求する努力をしていかなければならない。(おわり)
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