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2013-05-04 13:03
(連載)日露首脳会談をどう評価すべきか(1)
袴田 茂樹
日本国際フォーラム「対露政策を考える会」座長
4月29日に、かなり長時間にわたった安倍首相とプーチン大統領の首脳会談とランチ会談が終わり、共同記者会見も無事行われ、共同声明も出された。全体の印象であるが、この十年間の日露関係はお互いに「相手を無視し合う」関係だったが、その転機となる首脳会談だったことは確かだ。背景には、プーチンの「アジア重視政策」もある。また、日本で自民党の安倍政権が成立したことも重要だ。安倍政権は今も支持率が上昇しつつあり、今は70%を超える状況で、この政権は安定した長期政権になる可能性がある。ロシア側としても経済協力は是非必要で、したがって本気で日本に対応しようと考えたはずである。ロシアはリアリストしか重視しないし、その意味で本音では民主党よりも自民党を高く評価している。親露派と言われた鳩山由紀夫首相や、管直人首相は、まったく相手にしていなかった。
今回出された共同声明で圧倒的な比重を占めているのは経済関係である。プーチンも記者会見で主として経済関係を述べた。この声明では2003年の日露行動計画に幾度も言及されている。その理由は、2003年以来10年ぶりの公式首脳会談だったというだけでなく、この行動計画が経済協力に大きな比重を置いているため、ロシア側がそれを重視しているからでもある。今、ロシアが日本との経済協力を最重視する理由は、説明不要だろう。日本側としても、安倍首相は今回のロシア、中東訪問を「経済外交」と位置づけていた。さらに、国際政治や安全保障面での協力として、「2+2」すなわち閣僚級の外務・防衛当局間協議を立ち上げるとの合意も注目される。この背後には明言はされなかったが中国ファクターがある。さらに、北朝鮮問題や、大きく変動する国際情勢に対して、両国が協力して共同で対処しようという意図もある。このような形での戦略的協力は、日本としては米国、オーストラリアに続いてロシアが3番目だ。日本を単なる米国の属国あるいは非独立国と見ていたロシアは、安全保障面で日本と本気で対話や協力をしようとは、以前は考えもしなかった。これまでになかった日本への前向きのアプローチである。
日本人の最大の関心事である平和条約問題、つまり北方領土問題の行方はどうだろうか。「戦後67年経ても日露間で平和条約が締結されていないことは異常」だという認識を両国首脳が共有し、平和条約交渉の「再スタート」「加速化」が謳われた。ロシア国内で、日本との間の領土問題の存在そのものを否定しようという雰囲気が強まっている中で、また、ラブロフ外相さえもが、平和条約不要論を公然と主張する状況のなかでは、両国首脳が平和条約交渉の必要性とそれを加速化させることに同意したことには、大きな意義がある。
ただ、共同宣言では「双方に受け入れ可能な解決策」という文言と共に、「お互いの国民感情への配慮を背景として平和条約交渉を進める」との文言もある。大国主義やナショナリズムが高まっているロシア国内の情勢を考えると、事実上これは、日本への返還を拒否することを意味しかねない。プーチンには、国後、択捉も含めた北方4島の主権交渉を本気でしようという雰囲気や気迫は、残念ながら今回の首脳会談でもまったく感じられなかった。それは共同声明だけでなく、後述のように、日本のテレビでも放映された両首脳の共同記者会見でも感じたことである。(つづく)
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