ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2013-04-03 07:15
シンクタンクの充実による国力の増強を
山下 英次
大阪市立大学名誉教授
国際社会では、自国に有利な国際世論の形成や様々な国際標準の獲得に向けて、思想やアイディアを巡る熾烈な戦いが繰り広げられている。こうした点で本来大きな力を発揮するのは、本来シンクタンクの役割である。しかしながら、現状では、日本のシンクタンクは、総じていえばかなり非力といわざるを得ない。外務大臣の諮問を受けた外交・安全保障関係のシンクタンクのあり方に関する有識者懇談会(座長・田中直毅)の報告書「日本における外交・安全保障関係シンクタンクのあり方について:外交力を強化する〈日本型シンクタンク〉の構築」(2012年8月)も、非常に強い危機感を訴えている。日本では、「霞が関が最大のシンクタンク」などといわれることがあるが、すべてを官に任せると失敗するということを、戦前の経験から教訓としなければならない。民主主義のもとにおいては、常に、第3者的な立場から政府の政策に批判的な検討を加えることが肝要である。それがシンクタンクの役割である。シンクタンクが、政府と同じ歩調で歩み、同じような政策提言をしていたのでは、存在意義がないのである。
日本のシンクタンクは、欧米のシンクタンクに及ばないどころか、他のアジア諸国と比べても見劣りがする面もある。例えば、米ペンシルヴァニア大学が世界の有力シンクタンクを調査した結果では、アジア第1位のシンクタンクは北京の中国社会科学院(CASS)である。中国のことなので、CASSは公的な機関であるが、約40の研究所と3,000人のスタッフを擁している。
日本のシンクタンクの問題点をいくつか挙げてみよう。第1に、資金的にも人材的にも公によって運営される公的機関が幅を利かせすぎている。第2に、民間機関の資金源については、個別企業が所有する機関が多く、幅広い層から会費を徴収するタイプの機関が少ない。本来、幅広い層から資金を調達するのが理想である。個別企業系のシンクタンクの場合、どうしても当該企業の色が付きやすい。また、企業系シンクタンクの場合、独立採算制を高めるとして、外部からの委託調査の受注に汲々とするところも少なくないが、これではそもそもシンクタンクとは言えない。第3に、民間のシンクタンクの場合でも、人的資源を官僚出身者に頼りすぎている。日本では、多くの民間機関のトップが、博士号の学位を持ってない官僚出身者によって占められている。また、第一線で活躍する調査スタッフも、官僚出身者である場合が少なくない。しかし、学位を持っていない者が主要な調査スタッフとして活動しているようなシンクタンクは、世界的におそらく他になく、日本ぐらいのものであろう。そもそも、ヨーロッパでは、官僚も学位を持っている人も珍しくない。いずれにせよ、日本社会は、明らかに元官僚を極端に重用しすぎている。元官僚でも、自分の出身官庁の政策に批判的な人も希にいるが、多くの場合、自分の出身官庁の政策の延長線上の主張にとどまっている。わが国は、現在、歴史的な岐路に立っており、政策上の大きな転換も必要とされるが、これらの人々が出身官庁の従来の政策路線を大きく変えるような政策提言ができるとは到底考えにくい。以上のように、わが国のシンクタンクには、人的資源の構成という面でも大きな問題がある。
民間によって運営されるシンクタンクを育成していくことが、日本の総合的な国力・影響力を高めるために欠かせない。資金面については、日本でも、2011年から寄付金に対する税制優遇措置が本格的に導入されたが、さらに充実させ、極力広く浅く資金調達を行えるような環境を整えていくことが必要とされる。ただし、日本の場合には、資金的にすべてを民間で賄うことは非常に難しく、政府がある程度助成する形が現実的であろう。ただし、政府は、人事についても、提言する政策の内容についても、口を出すべきではない。ちなみに、歴史上、日本最大のシンクタンクは、1907年(明治40年)創設の満鉄調査部であった。最盛期の1938年には、2,125名のスタッフをかかえ、予算額は現在の価値(1983年時点)にして38億円にのぼった(草柳大蔵『実録 満鉄調査部』、1983年朝日新聞社刊)。満鉄調査部は、最後は、軍部に利用されてしまったが、フィールド・ワークを中心に、非常にレベルの高い研究成果を上げていたわけであり、いまなお参考とすべきとところが少なくない。いままた、日本は、偉大なシンクタンクの設立を目指すときではないだろうか。
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
シンクタンクの充実による国力の増強を
山下 英次 2013-04-03 07:15
┗
求められる研究者と実務者の歩み寄り
清瀬 孝一 2013-06-24 21:34
一覧へ戻る
総論稿数:5636本
公益財団法人
日本国際フォーラム