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2012-04-30 10:11
(連載)「革新的エネルギー・環境戦略」はバランスを重視せよ(2)
角田 勝彦
団体役員
環境との関係では、とくに地球温暖化への影響が注目された。原発比率を増やせば、地球温暖化の原因である二酸化炭素を排出する火力発電の比率を減らせる。世界の一次エネルギー供給構成を見るに、なお炭化水素資源の比率は大きい(2008年総供給ベースで日本84.5%)が原子力の比率が増大している(日本9.7%)のはこれが一因である。2009年9月鳩山首相が国連で、「2020年までに1990年比25%減」という温室効果ガスの中期削減目標を華々しくぶち上げたのも、原発依存が背景にあった。このように原発は、経済成長とエネルギーと環境のトリレンマ解決を導くと期待された。もちろん核テロの可能性を含め原発の危険性はかねて指摘されてきた。とくに1986年のチェルノブイリ原発事故から多くの欧州諸国などは脱原子力政策を進めていた。
しかし近年のエネルギー価格の高騰、資源国による資源ナショナリズムの拡大、中東の政情不安、地球温暖化への懸念から、原子力回帰の動きが見えてきた。1979年のスリーマイル島原発事故で原発新規建設を凍結してきた米国も変わった。2010年1月の一般教書演説でオバマ大統領は、原子力をほかの低炭素エネルギーと同等に取り扱う姿勢を打ち出した(なお彼が唱道する「核なき世界」は「核兵器なき世界」の意味である)。日本は原子力発電に積極的であった。2002年6月にエネルギー政策基本法を制定し、2003年10月にエネルギー基本計画を策定していたが、2030年までのエネルギー政策の指針を定めた2010年6月の基本計画(第2次改訂基本計画)では原発や太陽光、風力発電など、発電時に温室効果ガスを出さない発電の導入を推進し、全発電量に占める割合を現在の34%から70%に引き上げるとして、原子力発電所の14基以上の新増設を打ち出した。なお原子力産業自体の経済活性化への貢献(原発輸出を含む)の可能性も指摘された。
しかし福島第一原発事故により、このエネルギー基本計画は抜本的に見直されることとなった。政府のエネルギー・環境会議はエネルギー政策や地球温暖化対策などを網羅する「革新的エネルギー・環境戦略」をこの夏にまとめる予定である。中心課題は平成42年時点で電源に占める原子力発電、火力発電及び再生可能エネルギーの割合をどうするかという構成比率になろう。経済産業相の諮問機関である総合資源エネルギー調査会は、年間総発電量を22年度比10%減(現行のエネルギー基本計画の想定からは20%減)とする前提で、原発の比率は0~35%、火力発電は30~55%、現在は10.5%の再生可能エネルギーについては最大35%まで引き上げるとの範囲内で、各種の選択肢を検討しているとされる。
福島を除き50基になった日本の原発全ての再稼働がなければ、自然に脱原発は実現される。大飯原発再稼働への反対には、その思惑もあろう。しかしNHK世論調査によれば、同地域住民の71%は再稼働に不安を持っているが、再稼働自体には54%が賛成している由である。経済的考慮とのバランス感覚であろう。政府の政策には、原子力安全のほか、エネルギーの安全保障、地域活性化を含む経済活性化、地球温暖化対策などを考慮しなければならない。個々の再生可能エネルギーの実用性も十分検討されねばならない。要するに政府がこの夏まとめるとされる「革新的エネルギー・環境戦略」については、かかるバランスが十分重視されることを期待するものである。(おわり)
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(連載)「革新的エネルギー・環境戦略」はバランスを重視せよ(1)
角田 勝彦 2012-04-29 12:22
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角田 勝彦 2012-04-30 10:11
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