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2011-03-21 17:54
未曾有の危機に見る希望と連帯の輪
星野 三喜夫
新潟産業大学経済学部教授
今般の大震災に直面し、全国民が自然の脅威と容赦のない被害の巨大さに胸を打ちひしがれる思いでいる。亡くなられた方々に哀悼の意を表すとともに、被災されたすべての地域の一刻も早い復旧を心よりお祈りする。加えて、自衛隊、警察、消防、海上保安庁を始めとする国や地方自治体、諸外国の救援部隊等、様々な救援組織に属する人々の、余震の続く危険な状況の中での身体を張った救援と復興活動に、心からの感謝と敬意を表したい。世界の多くの国・地域、国際機関が日本への支援を申し出ている。国内外の民間による義援金や募金の動きも強まっている。このような震災の中にあっても、助け合い、秩序ある行動をとる日本人を称賛する論調が海外で目立つ。日本人は逆境時に速やかに協力体制を組織することに優れた国民だと言われてきたが、今我々はそれを証明しているのであり、それを極く普通の当たり前のことと思う国民性に自信を持ちたい。
辛口コメントで名高いニューヨーク・タイムス紙のクリストフ元東京支局長も、「日本への同情、そして称賛」と題して、日本人特有の忍耐、冷静さ、ルールと秩序の遵守の精神を、復興への期待をこめて称えている。筆者がかつて住んだ米国も含めて、海外では一旦コトがあると、暴動や略奪に備えた身の安全の確保が最大のテーマになるが、日本ではその種の心配は不要である。危機に際し最も懸念されるのが悪質なデマゴギーである。意図的なものや海外発を含め原発関連のデマ(「東京は危険だから直ぐ脱出しろ」等々)が一時広がるかに見えたが、一部を除いてマスコミも誇大な危険情報を流すことを差し控える努力を払っているのは幸いである。他方、国際的な風評被害により外国人の日本脱出が相次いだのは残念である。政府は専門家の意見を強力に取り上げて、広く発信する努力が必要であったろう。
今回の震災により日本経済が深刻な影響を受けるのは免れない。インフラや設備の破壊に加えて、消費や企業活動の停滞が懸念される。当面は急激な円相場の変動阻止が急務である。3月18日のG7合意に基づく「協調介入」により円高には一定の歯止めが掛かっているが、思惑先行や投機的な円買いは今後も続くと思われ、予断を許さない。しかし、復興・再建への努力は必ずその後の日本経済を大きく持ち上げると信じたい。一方で、内閣お揃いの防災服は着ていても「一緒に頑張ろう」の国民向け首相メッセージ(3月18日)に説得力や求心力がまったくない、と感じたのは筆者だけではないであろう。混乱の中、国民に向けては忍耐の共有を、世界に向けては早期復興を宣言すべきリーダーシップが求められているのに、被災地視察という自らのパフォーマンスに拘り続けたのは情けない。危機管理と危機対応力欠如は政権再選択の日が近いことをわれわれに教えているのかも知れない。
被災された人達に対して西日本を中心に多くの自治体や個人から支援の手が差し伸べられている。中越沖地震でノウハウを積んだ我が柏崎市も、いち早く避難住民の受け入れに動いた。一方、早くも近隣県の野菜や牛乳から規制値を超える放射性物質が検出されたとの報道がなされており、健康に害を与えるレベルに遠い数値によって起こる風評被害が心配である。先の震災で大きな風評被害を被った一柏崎市民として、心が痛む。今回の震災は地域の方々にとり地震、津波、原発の三重苦であるが、日本全体が被った災害として、国民全てができるところから少しでも多く分かち合っていくことが大切である。大地震と津波は、私たちの大切な人、景観、築きあげてきたストックを一気に奪い去ったが、そこに希望と勇気、日本再建のための連帯の種を植え付けていったのだと思う。一人ができることは僅かであるが、一人ひとりがそれぞれのキャパシティでできることをして、この国難を乗り越えて、これまでに増して素晴らしい日本を築き上げたいと思う。
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