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2009-07-02 08:25

(連載)イラン政治の現状と今後の動向(1)

茂田 宏  元在イスラエル大使
 6月30日、イランの護憲評議会は「6月12日の大統領選挙に不正があった」とのムサビ、カルビ両陣営からの申し立てを検討した結果として、アハマドネジャド現大統領の再選を確定した。これは予想された結果である。護憲評議会は10%の投票箱を再集計するといっていたが、有効投票数は3875万票余であり、その10%は388万票足らずである。然るに最初の集計では、アハマドネジャドとムサビの票の差は1130万もある。ありえないことであるが、再集計された票が全部ムサビ票であったとしても、アハマドネジャドの勝利は動かないことになっていた。

 今回の大統領選挙の不正を糾弾するデモの規模を見て、イラン民衆がムサビを先頭に選挙の不正をきっかけに立ち上がり、神権政治に反対して、自由を求めた、しかしその後、デモは政権側により過酷に弾圧された、とのイメージが西側にはある。しかしこのイメージは、全体としては間違っていると思われる。ムサビも、それを支持しているラフサンジャニも、ベラヤティ・ファキーフ体制内の人であり、イランの現体制を否定するようなことは、何も言っていない。

 彼らには、体制の変革という「革命」を求める気持ちなどは、少しもない。体制の枠内で、アハマドネジャド、更にはハメネイがよくない、と言っているに過ぎない。今回のデモをホメイニが帰還した時のデモや、ウクライナのオレンジ革命やグルジアのバラ革命の際のデモと同じような観点から見るのは、根本的に間違っているだろう。デモ隊の中に本当に自由を求めた人もいただろうが、指導者のレベルでそれを代弁した人はいない。

 こういう中で、革命など起こるはずがない。私はソ連崩壊にいたる革命、ルーマニアのチャウセスク政権の崩壊などを見てきた。デモ隊に対峙する軍や治安機関に、デモへの同情があり、少なくとも中立的な立場に立ったときに、革命につながる展望が出てくる。イランの場合、革命防衛隊や民兵バシジにデモ隊への同情はなく、それは天安門事件で軍が学生に同情心がなかったのと同じである。今後デモが仮に続いたとしても、弾圧され、徐々に勢いを失うだけであろう。(つづく)
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