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2009-06-01 09:38

頭角現す菅義偉“政局スポークスマン”

杉浦正章  政治評論家
 近ごろカラスの鳴かない日はあっても自民党選挙対策副委員長・菅義偉(すがよしひで)の名前を見聞きしない日はない。同じ漢字の名前・菅直人(かんなおと)の回数を上回り、菅とだけ出ても「すが」と読むようになってきた。その発言は政局中心だが、実に的を射ており、報道各社の政治部取材には欠かせぬキーパーソンとなった。幹事長や官房長官の発言より重いときが多い。首相・麻生太郎の信頼も厚く、まるで“政局スポークスマン”的な存在である。

 例えば菅の30日に行った解散時期に関する発言「麻生太郎首相の判断として遅い方がいいという方向に少しずれ始めている」を分析してみよう。これは明らかに29日夜の首相との会合の空気を反映していることが分かる。「少しずれ始めている」とは、首相との接触回数が多いからこそ出来る発言だ。そのうえにこれほどの重要発言を、首相の了解を得ずにするはずはない。つまり首相の意を体していることも分かる。

 菅の首相との接触回数は、ほとんど毎週である。週に2回というケースもある。最近の菅の首相との接触を見ると、発表されたものだけでも5月11日、15日、25日、26日、29日と立て続けだ。とりわけ26日は、翌27日の民主党代表・鳩山由紀夫との党首討論を控えて綿密な打ち合わせをしたようだ。討論での焦点の絞り方を「小沢院政の浮き彫り」に絞ったことや、言い回しなど討論技術にわたって進言したに違いない。その結果明らかに「麻生の勝ち」を導いている。

 菅は中川昭一や甘利明とともにNASAといわれる首相側近だが、最近では両者より抜きん出ているといってもよい。当選はわずか4回で、首相の重用ぶりから、自民党内には“嫉妬”も芽生えている。その台頭ぶりは、やはりたたき上げの野中広務のケースと似ている。秋田県出身で高校を卒業して集団就職列車で上京し、苦学をして法政大学を卒業。衆院議員・小此木彦三郎の秘書となり頭角を現し、横浜市議を経て96年の総選挙で初当選している。選対委員長古賀誠から信頼を得て、同副委員長に就任して現在に至る。首相では安倍晋三の信頼も厚かった。

 政策面でも「世襲制限」を最初に言い出し、党内からはやっかみ反分の反対論が生じたが、問題の本質を小泉純一郎の後継問題と看破して、根回し。後継を公認しないことで決着をつけるというすご業をみせた。世襲問題はたたき上げだからこそ出来る問題提起であろう。政治家とは受け継ぐものでなく、自らの努力で切り開くもの、という人生哲学が根底にあるのだ。まさに人材が枯渇している麻生側近のなかで、唯一の光る存在だ。まだ60才と若く、さらなる成長が楽しみだが、今のところは派閥の長として首相を目指すタイプと言うより、参謀役が似合っている。
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