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2009-03-09 13:25

(連載)米露核戦力削減交渉の意味合い(1)

神浦 元彰  軍事ジャーナリスト
 核戦力制限交渉を考える上で、”オーバーキル”という言葉が常に出てくる。私が若い頃にアメリカの射撃場で、拳銃を使ったコンバット・シューテング(戦闘射撃)を教わったことがある。そのアメリカ人教官は、「一人に顔(頭)に2発、胸に2発の銃弾を撃ち込め。これが敵の攻撃力を奪うワン・キル(致命傷射撃)だ」と訓練生に教えていた。それ以上の弾丸を撃ち込むことはオーバーキル(過剰な攻撃)で、非効率で無駄な攻撃だという意味でもあった。

 91年に米露でSTART1が調印されたとき、米露双方には各1万発を超える戦略核弾頭が配備・貯蔵されていた。互いにオーバーキルをはるかに超える過剰な量であった。互いの不信感と不安が1万発の核弾頭を必要にしたのだ。「国家として存続できないほどの打撃を相手に与えるためには、双方の保有する戦略核弾頭の数を6000発以下にしても十分」として、START1が調印された。この核戦力削減の考え方の根本では、従来からの相互確証破壊戦略(MAD)は否定されていない。

 さらに93年には核弾頭を3000~3500発に減らすSTART2が調印されたが、アメリカは修正した議定書に調印しなかった。しかし、2002年には2012年までに核弾頭を1700~2200発まで削減する「モスクワ条約」が調印されている。今でも米露は、互いに対等の立場でオーバーキルの状態を下げる必要性を自覚している。ここにも確証破壊戦略の考えはまだ生きている。

 因みに、中国の戦略核戦力は、確証破壊戦略に従っていない。なお、START1やモスクワ条約の背景には、過剰な核兵器競争によって、米露が不安定な関係に陥ることへの警戒心や、核兵器開発に投入する軍事費を押さえたい要求もある。(つづく)
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