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2008-12-11 23:38
所長だより(3):「第210回国際政経懇話会」について
村上 正泰
日本国際フォーラム所長
今回の「所長だより(3)」では、さる12月10日(水)に開催された第210回国際政経懇話会について、所感を述べます。国際政経懇話会とは、当フォーラムの役員、会員が毎月1回定例的に、国際情勢の機微に精通した専門家あるいは権威者を講師に迎えて、時局を中心とした外交・国際問題について、インフォーマルかつコンフィデンシャルな懇談を行っている会合です。今回は国際金融情報センター理事であり、当フォーラム評議員も兼ねる大場智満元大蔵省財務官を報告者に招き、「金融資本市場の破綻と世界経済の悪化」と題して開催されました。
大場氏は、1985年のプラザ合意当時の財務官であり、わが国の通貨交渉の重要な場面に当事者として立ち会ってこられました。今日の世界経済は、サブプライム問題に端を発する金融危機が今年9月のリーマン・ブラザーズ破綻へと至った後、今や危機は金融セクターだけではなく、実体経済へと広がりを見せており、グリーンスパン前FRB議長の言葉を借りれば、「100年に一度の危機」に陥っています。こうした歴史の大転換点にあって、通貨交渉の歴史の表も裏も知り尽くした大場氏からお話をお伺いすることができ、大変貴重な会合でした。
大場氏のお話の中で興味深かったのは、国際通貨制度の将来についての見方です。ドルは今のまま基軸通貨であり続けるのか、それともドルの優位性は崩れるのか、さまざまな議論が行われていますが、大場氏は具体的データをもとに「貿易取引ではドル基軸が続いているが、資本取引では貿易取引と全く異なる状況になっており、ユーロが基軸通貨としての地位を築きつつある」と指摘されていました。いますぐにドルが基軸通貨としての地位を失うわけではありませんし、最近のユーロ相場は弱含んだ動きを続けていますが、米国の財政赤字と経常赤字がともに1兆ドルに達する規模へと拡大する中で、「ユーロの存在がドルにかつてのような地位と役割を許さなくなる可能性がある」という大場氏の指摘は、今後の国際通貨制度を見通していく上で、重要なポイントであると感じました。
また、大場氏は「一番気になっているのは、日本だ」として、「通関統計ベースで見たわが国の貿易収支が今年8月以降、ゼロまたは赤字に転落している」と述べられましたが、これは非常にショッキングなデータだと言えるでしょう。いまや日本は貿易黒字国ではなくなりつつあることを意味するからです。大場氏のお話を聞きながら、わが国経済システムのあり方が大きく問い直されていることを改めて痛感しました。
当日のより詳細な「メモ」につきましては、近く当フォーラムのホームページに掲載されますので、ご関心のある方はそちらをご覧ください。
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