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2008-09-16 14:27
どこへ行くヒラリーさん?
山田禎介
ジャーナリスト
アメリカ大統領選は11月と間近。オバマ民主、マケイン共和の両大統領候補のキャンペーンも佳境だが、その選挙戦のなかで登場したサラ・ペイリン共和党副大統領候補が、何かと話題をさらっている。この女性アラスカ州知事の副大統領候補の言動により、これまで米国初の女性大統領にと注目されたヒラリー・クリントン上院議員のことは、すっかり忘れ去られたようにみえる。オバマ氏との民主党候補指名接戦で、持ち前の勝気さと舌鋒が裏目に出たヒラリーさん、多くの支持者が期待した副大統領候補への道はなかった。だが、ヒラリーさんはかつて全米弁護士100選の1人。むろん元ファーストレディーの名は消えず、またニューヨーク州選出の上院議員という現役の実力派である。ヒラリーさんは、またも4年後の大統領選挙を目指すという声も聞かれる。だがこれまでの大統領選からみて、党指名に敗れての再登場は至難の業だ。再度の大統領候補指名の道は険しい。近年ではわずかに1988年の党指名に敗れた民主党の上院議員アル・ゴアの例がうかがえる程度。
このゴア元副大統領は、2000年大統領選でブッシュ共和党候補に敗れたが、この大統領選に至るまでコンビを組んだビル・クリントン氏(大統領)より、全米レベルの政界では先輩格だったのだ。ところでヒラリーさんには11月後、どのような将来が考えられるだろうか。ニューヨークという最重要州選出の上院議員であり、全米を目標にした政治活動にまだ情熱を持っている。最近ヒラリーさんは米赤十字社を訪問し、全米市民に大型ハリケーン被災者の救済運動を呼びかけた。偶然だが、この米赤十字社の総裁から2000年大統領選で共和党候補指名を目指した女性政治家がいた。ヒラリーさんとは、ことごとく対照的なエリザベス・ドール上院議員だ。1996年大統領選で民主党クリントン候補と争った共和党のボブ・ドール氏の夫人である。エリザベス・ドール上院議員は、南部富裕層出身で、かつては民主党員。ヒラリーさんは、シカゴ庶民層の父親にならって共和党員だった。
さて、4年後の再浮上は客観的にもかなり難しい。まずはマケイン、オバマ両大統領候補のいずれが大統領になるにせよ、ヒラリーさんをそれなりのポストで遇することになるのではないか。それこそファースト・レディー時代、全米での健康保険導入に意欲を燃やしたヒラリーさんなら、あるいは赤十字社総裁への道も考え得る。またそれ以上に、米国の政治の歴史からみて、英仏など有力国の大使起用も考えられる。ここで大使説を挙げるのは、米国ではケネディ大統領の父、ジョセフ・ケネディ駐英大使を代表に、著名人の大使起用という例が多くあるからだ。民主党のクリントン大統領は、共和党レーガン、ブッシュ政権の統合参謀本部議長のクロウ海軍大将を駐英大使に任命したが、それ以上に話題になったのが、超有名女性パメラ・ハリマン夫人の駐仏大使起用だった。米欧世界は、英貴族出身で戦前、戦後、パリで浮名を流したパメラ・ハリマン夫人が米国代表としてパリ駐在となることに驚愕した。
パメラ夫人は戦後、ブロードウェーの有名プロデューサーとの結婚後、民主党の長老アベレル・ハリマンと結ばれ、その未亡人だったが、人生のキャリアはそんな程度では収まらない。戦前チャーチル英首相に仕え、首相の息子ランドルフ氏との結婚と破局もあった。現英下院のウィンストン・チャーチル議員はパメラ夫人の息子だ。あえて政治的効用を説くならば、パメラさんの存在こそ、歴史的な米英の特別な関係が今も生きていることを示す好例だ。キャリア外交官の頂点に立つものが主要国大使になる日本と違い、米国の場合、著名人の政治的起用はごく普通。レーガン大統領も就任後にまず、俳優ジョン・ギャビンをメキシコ大使に起用した。ジョン・ギャビンは1950年代末から60年代にかけ、日本でもなじみのスターだ。また大物で著名な上院議員から”大国の大使”というケースでは、「日米関係ほど重要な二国間関係はない」と言い切ったマイク・マンスフィールド氏がいる。民主党のカーター大統領が日本大使に任命したマンスフィールド大使は、レーガン共和党政権にも引き継がれ、在任は11年にも及んだ。
こうした例をみても、仮に共和党のマケイン大統領が実現しても、依然話題性のある民主党の大物、ヒラリーさんの大使起用には障害があるとは思えない。またヒラリーさんは英ウェールズ系の祖先を持つ。駐英大使ならば、まさに郷里に錦を飾ることにもなる。だがこの大物政治家マンスフィールド氏の例をみても、大使就任は一方で政界引退の花道ということにもなる。さて、いまヒラリーさんはそれに納得できるだろうか。もしやまた、4年後のマダム・ヒラリーは、これまでのアクティブなスタンスを捨てた64歳の円熟派として、再び大統領選に立つことを選ぶのだろうか。ヒラリーさんのその前にある全米政治風土の奥底では、今回登場のペイリン副大統領候補のように未知の若い新人がチャンスをねらっているはずである。米国初の女性大統領候補といわれているヒラリーさんを、なお注視していきたい。
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