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2008-09-09 09:50
テポドン発射から10年:日本の安全は万全か
青木節子
慶應義塾大学教授
1998年8月31日、北朝鮮が中距離弾道ミサイル・テポドン1号を日本海に向けて発射し、第2弾が日本の上空を通過して、発射地点から約1600キロメートルの三陸沖に落下するという事件があった。「これは、衛星打上げの失敗であり、ミサイルの発射とは意味が異なる」という見解も、いまだ根強く存在するが、仮にそうであっても、日本の抱える安全保障上の懸念は変わらないので、本稿では、衛星打上げ失敗説は措く。その後の日本の防衛政策の選択については、テポドン1号がもたらした衝撃によるものが少なくないが、最も直接的な影響の1つとして、情報収集衛星(IGS)の導入を挙げることができるであろう。
ミサイル発射の翌日には、官房長官が、日本の防衛のために衛星画像の活用を検討すると発言し、11月6日にはIGS自体の導入が、同年12月22日には2002年を目途とした、4機のIGS(2機の光学衛星と2機のレーダー衛星)の導入がそれぞれ閣議決定されるなど、従来からは考えられない速度で次々と重要な決断がなされた。画像の解像度が高性能な商業衛星と同等の約1メートルに抑えられたことや、衛星運用主体が内閣官房であることなど、専守防衛の宇宙能力利用としては不足の感が否めない部分もあったが、宇宙の平和利用とは非軍事利用に限ると定める国会決議(1969年)の下でなし得る最大限の措置が迅速に取られたといえよう。
あれから10年、本年8月27日には、宇宙基本法も施行され、首相を本部長とする宇宙戦略開発本部が成立した。来年度には、初めて科学研究、基盤技術開発のみではなく、安全保障利用、産業化促進なども同等の重みをもつ、包括的な「宇宙基本計画」(同法第24条)を策定することとなった。専守防衛の枠内で、また、集団的自衛権の行使とみなされない範囲で、宇宙能力を「国際社会の平和及び安全の確保並びに我が国の安全保障に資する」(同法第14条)よう用いるため必要な施策を採る国の責任が規定されたのである。北朝鮮からのミサイルの脅威に対して、弾道ミサイル防衛をより実効的なものとして整備するために、宇宙技術を用いてなにが可能であるのか、日本にそのような技術はあるのか、ない場合には独自に研究開発することが他の条件との比較衡量から言って望ましいのか、等を根本的に議論するための基盤ができた。
国家安全保障という観点から望ましい方向に進んでいることは疑いをいれない。しかし、状況は決して楽観視できるものではないことも事実である。北朝鮮は、2006年7月5日には、長距離弾道ミサイル・テポドン2号(射程約6000キロメートル)を含む7発のミサイルをロシア沿海地方南方の日本海に向けて発射し、同年10月9日には、核実験の成功を発表した。その後の六者協議の一層の困難については言を俟たない。1992年の朝鮮半島非核化についての南北共同宣言や2005年9月に再確認した朝鮮半島の検証可能な非核化という目標に到達する見込みは、現状ではいかに楽観的な予測に基づいても決して高いものとは言えない。すでに、米国の目標は、北朝鮮からの核兵器等拡散防止に入ったとすら言われることもあるほどである。
テポドン1号発射からちょうど10年たった現在は、過去10年の、日本の北東アジア政策を振り返り、今後いかに日本の安全保障を高めていくか、その方途を考えるための好機である。「国際的な安全保障環境を改善し、我が国に脅威が及ばないようにする」(2004年12月の「防衛大綱」基本方針)ために、北東アジアおよび東アジアに対して日本はどう関与すべきなのか、最適な行動指針を導き出すためにも、正確な過去の評価が必要であろう。
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