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2008-07-09 08:10
原油価格高騰に無策だったサミット
杉浦正章
政治評論家
総じて言えば、主要国首脳会議(サミット)は、温室効果ガス削減問題では半歩前進したものの、注目された原油価格高騰問題では即効性のある手段を講じることができなかった。潜在する国際社会の対立の厳しさを浮き彫りにした形だ。「G8は会談することに意義がある」というなら、「そうですか」と言うしかない内容だ。温室効果ガスの2050年までの半減目標は、「合意」と表現するに至らず、「国連で検討し、採択することを求める」と、事実上国連に丸投げした。首相・福田康夫は、中国・インドなどの参加がなければ意味がないとする米大統領・ブッシュを説得できなかったことになる。G8が「合意」できない問題を、米国自身が評価していない国連という組織に“たらい回し”して、実りある結論を得られるとは、誰も思っていまい。「大衆討議」でパンドラの箱が開くだけではないか。
マスコミの評価も割れている。朝日新聞が9日の社説で「50年までに半減を目標とすることには、米国がなかなか『うん』と言わなかった。そうしたなかで、この旗を降ろすことなく、それを国連の枠組みに託したのである。まもなく政権の座を去るブッシュ大統領の米国を、日本や欧州が押し切り、国連主導の流れを確かなものにしたといえる」と高揚した筆致で“賞賛”したが、珍しく甘い内容だ。欧米のマスコミも日本のマスコミもこれほど甘くはない。社説子は国連という機構をご存じないらしい。現に国連事務総長・ 潘基文(パン・ギムン)も同じ朝日の紙面で「もっと強い言葉が望ましかった」と不満を示しているではないか。NHKは「半減を明確にできなかった。米国の主張に配慮した玉虫色の表現で、各国が都合の良いように解釈できる内容」とコメントしたが、このあたりが正解だろう。9日の中国・インドなどとの会合を意識して、国別総量目標の設定に同意したことを考え合わせても、前回のハイリゲンダム・サミットよりせいぜい半歩前進程度だ。
毎日新聞も「長期目標の合意に、京都議定書以降(ポスト京都)の削減を後押しするだけのインパクトがあるかどうか、首をかしげざるをえない」と疑問を呈し、産経新聞も「一歩前進と言えるが、あいまいな表現も多く、具体化に問題を残した」と冷静な見方だ。福田の議長としての役割評価については、読売が「総合的にみると、日本は議長国としての役割は果たせたのではないだろうか」、日経が「中継ぎとしてのサミットのあいまいな役割を、議長を務める福田首相は見事に演じ切ったのかもしれない」と評価している。
経済界の玄人筋が、「サミットの実力が計れる」ともっとも注目していたのは、原油価格の高騰への歯止めがG8で実現できるかどうかだった。とりわけ思うままに原油価格を操っている投機筋への規制ができるかどうかだったが、“お経”のような首脳宣言にとどまった。「市場に流れ込む資金について、情報の開示を進め、透明性を高める」では即効性はない。石油価格高騰の原因については、水面下の対立として、サブプライム・ローンで行き場の失った投機マネーの原油市場へのなだれ込みを原因とするヨーロッパ勢と、中国・インドなど新興工業国のエネルギー需要急増を原因とする米国の対立があり、福田はそのはざまでなすすべがなかったことになる。NY原油市場は大幅に続落しているが、これはサミットとは関係のない理由で下がっているだけである。サミットは投機マネーに今後つけいる“隙”を与えた形だ。
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