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2008-05-04 12:57
「暴言牧師」がオバマ候補の足かせに
梨絵サンストロム
ジャーナリスト
2008年のアメリカ民主党候補指名選挙は、史上類例のない異常な状況下で進行している。アメリカが直面する深刻なイラク、アフガニスタン、エネルギー、経済、環境問題などは影を潜め、メディアは昼夜候補者の失言、虚言に大騒ぎし、オバマ候補の敬愛していたライト牧師の暴言問題にハイジャックされた状態だ。4月28日月曜日にライト師はワシントンのナショナル・プレス・クラブで演説をした。全国放送というスポットライトに昂奮したのか、ライト師は、ブラック・リブレーション神学論を唱え、白人敵視、米国弾劾、「アメリカ政府はエイズ・ウィルスを開発して黒人絶滅を図った」などというナンセンスを、身振り手振りで、一世一代のパフォーマンスをしてのけた。ライト師の暴言問題は1ヶ月余り前すでに放映されている。オバマ候補はその際、世論のプレシャーから沈黙を破らざるを得ず、フィラデルフィアで大演説をして、ライト師の言動を批判した。
28日のライト師のパフォーマンスは、一時間近い演説であり、彼がしゃべった内容は、前回に輪をかけた過激な暴言であった。「先月オバマ候補が、あなたの言動に反対を示したことをどう思うか」との質問に、ライト師は「オバマ候補は政治家だ。政治家は自分の都合のいいようにものを言う。選挙で勝つためなら、本心でないこともいう」と冷笑しながら嘯いた。オバマ候補を失墜させる意図としか取れないこの発言は、全国メディアやトークショウの焦点になり、24時間もたたぬ間に、オバマ候補の支持率が急落し始めた。いままで煮え切らない態度をとり、メディア寵児としてフリーパスをもらっていたオバマ候補が、ごまかしようのない立場に追い込まれた。オバマ候補は火曜日に緊急記者会見を開き、「ライト師の暴言を聞いて、ショックだった。私は彼を全面的に非難し、彼との縁を放棄する」と言った。
20年間も師と仰ぎ、啓蒙されていながら、「昨日の暴言はショックだった」と言うオバマ候補の言葉に、まともな神経の人間は皆しらけてしまっただろう。自分を「ただの政治家、利になることなら何でも言う」と批判されて、初めてライト師に反抗する気になった。教会の説教壇から言った言動は見逃しておきながら、天下のナショナル・プレス・クラブでの同じ言動は慌てて非難した。こういうオバマ候補に、アメリカが訊きたいのは、「なぜ20年も彼に師事していたのか」という疑問である。何がライト師を怒らせて、オバマ候補に不利な言動を言ってのけさせたのか。昨年オバマ候補が出馬宣言をした会場で、祈りの言葉を捧げる筈だったライト師を、「問題のある人だから断ったほうがいい」と言うアドバイザーの忠告に従って、直前にライト師の出演を断った、という経緯を挙げる人もいる。この愛憎のドラマは、ギリシャ神話の悲劇に似ている。
いずれにしろ、今回のオバマ候補の非難と絶縁宣言は、ライト師をますます怒らせること間違いない。オバマ候補の支持率は急落したが、現在ヒラリーに勝ち越される危険とまではなっていない。しかし、「オバマ候補の絶縁宣言は、誠意があったか」との世論調査の結果は、60パーセント近くが「誠意はない。政治的な計算だけ」と答えた。オバマ候補は、今後ライト師が何を言い出すか分からないという時限爆弾を抱え、ライト師の捕虜になったのかもしれない。オバマ候補は、華麗な雄弁術と人気だけで、世界で一番大きな影響力を持つアメリカ合衆国大統領になった場合、“ならず者国家”の指導者たちとどう渡り合ってゆけるのだろうか。心配である。
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