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2026-06-24 11:55

英国及び豪州における制度的差異が国際経営戦略に与える影響 ―制度適応型国際経営モデル(IAIMM)の構築―

入門 貴男 小田原短期大学准教授
 本研究は、英国及び豪州における制度的差異が、多国籍企業(Multinational Enterprises: MNEs)の国際経営戦略に与える影響を考察することを目的とする。
 両国は、英語圏国家、コモンロー法体系、自由市場経済及び英連邦加盟国という共通の制度的基盤を有している。しかしながら、労働市場制度、管理会計実務、コーポレートガバナンス及び金融市場制度において重要な差異が存在する。
 本研究では、制度理論(Institutional Theory)、比較資本主義論(Varieties of Capitalism)、国際経営論(International Business Theory)を理論的基盤として採用し、制度適応型国際経営モデル(Institutional Adaptive International Management Model: IAIMM)を提唱する。
 英国及び豪州の比較分析を通じて、企業が制度環境を単なる外部制約としてではなく、戦略的資源として活用することが持続的競争優位の形成に寄与することを明らかにした。
 さらに、管理会計システム及びコーポレートガバナンスを事例として検討し、制度適応能力が国際経営成果に及ぼす影響を考察した。
 本研究は、制度理論と国際経営論を統合する新たな理論的枠組みを提示するとともに、多国籍企業の国際経営実務に対する示唆を提供する。

 1. はじめに
 グローバル経済の進展に伴い、多国籍企業は複数の制度環境に対応しながら事業活動を行う必要がある。従来の国際経営研究では、市場規模・取引コスト・所有優位性などが重視されてきた。しかし近年では、「制度環境が企業行動を規定する」という視点が注目されている。
 英国と豪州は制度的に類似しているように見えるが、実際には、労働規制・金融市場構造・ガバナンス制度において顕著な違いが存在する。本研究では次の研究課題を設定する。

【研究課題】
 英国及び豪州における制度的差異は、多国籍企業の国際経営戦略にどのような影響を与えるのか。
 本稿は、新たな研究ノートとして位置付けられ、英国及び豪州における制度的差異と国際経営戦略との関係を理論的に整理するとともに、制度適応型国際経営モデル(IAIMM)の構築を通じて、今後の実証研究に向けた理論的基盤を提供することを目的とする。

 2. 先行研究レビュー
 2.1 制度理論
 North(1990)は制度を「人間が設計した制約条件」と定義した。制度は企業の意思決定や組織行動に大きな影響を及ぼす。企業は制度環境へ適応することで競争優位を獲得する。

 2.2 比較資本主義論
 Hall and Soskice(2001)は資本主義を類型化し、英国と豪州を「自由市場経済(Liberal Market Economy)」に分類した。しかし、英国は金融市場中心、豪州は資源経済中心という違いが存在する。

 2.3 国際経営論
 DunningのOLI理論では、所有優位性・立地優位性・内部化優位性が国際展開の主要要因とされる。本研究では、制度適応能力も重要な立地優位性の一部であると考える。

 3. 研究方法
 本研究は比較ケーススタディ法を採用する。対象国は、英国及び豪州である。データついて、OECD・IMF・世界銀行・政府統計・学術文献を参照した。分析手法は、比較制度分析・内容分析・ケーススタディ分析を用いている。

 4. 研究結果
 4.1 管理会計制度の差異
 英国企業における管理会計は、株主価値最大化を重視する経営環境の下で発展してきた。そのため、Value-Based Management(VBM)、Balanced Scorecard(BSC)、Strategic Management Accounting(SMA)などの戦略的管理会計手法が広く活用されている。
 一方、豪州企業における管理会計は、規制遵守及びリスク管理を重視する傾向が強い。特に、リスク管理会計・サステナビリティ会計・ESG関連情報開示が経営管理システムへ統合されている。
 このような制度差異は、多国籍企業の予算管理、業績評価及び意思決定プロセスへ大きな影響を与える。

 4.2 労働市場制度の差異
 英国労働市場の特徴は高い流動性にある企業は、成果主義・契約ベース雇用・高度専門職採用を通じて柔軟な人材配置を実現している。
 これに対し豪州では、Fair Work制度・最低賃金制度・労働者保護規制が発達している。
 その結果、企業は長期的人材育成を重視する傾向を示している。

 4.3 コーポレートガバナンス制度の差異
 英国企業は株主重視型ガバナンスを採用している。経営者は株主利益の最大化を主要な目的として行動する。
 これに対して豪州企業は、地域社会・従業員・規制当局などのステークホルダーへの配慮が比較的強い。
 そのため経営意思決定プロセスにも差異がみられる。

 4.4 金融市場制度の差異
 英国は世界有数の国際金融センターである。特に、ロンドンは、国際銀行業務・証券市場・資産運用業の中心地として機能している。
 一方、豪州はアジア太平洋地域との経済連携を背景として、資源投資・インフラ投資・年金基金運用に強みを有する。

 5. IAIMM(制度適応型国際経営モデル)の理論的発展
 本研究で提唱するIAIMMは、従来のOLI理論及び制度理論を発展的に統合したものである。
 Stage 1.Institutional Awareness(制度認識)
↓Stage 2.Institutional Analysis(制度分析)
↓Stage 3.Strategic Adaptation(戦略適応)
↓Stage 4.Organizational Integration(組織統合)
↓Stage 5.Institutional Advantage Creation(制度優位性創出)
↓Stage 6.Sustainable Competitive Advantage(持続的競争優位)

 6. 考察
 研究結果は、制度適応能力が競争優位の源泉であることを示している。企業は制度を制約として捉えるのではなく、戦略的資源として活用すべきである。

 7. 結論
 英国と豪州の制度的差異は、企業の国際経営戦略に重要な影響を与えている。企業の成功は、制度環境への適応能力に依存する。本研究が提唱するIAIMMは、制度理論と国際経営論を統合する新たな理論モデルである。
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