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2026-06-17 00:43
朝鮮半島の非核化を問い直す
久保 有志
国際公務員
はじめに
北朝鮮外務省の報道官は6月14日、国営の朝鮮中央通信を通じて談話を発表し、日米および米韓の安全保障協議において確認された北朝鮮の非核化方針を強く非難した。同談話は、「敵国の核脅威を核をもって統制、管理しようとする決意」を表明するとともに、「非核化は最終的に逆戻りさせられない終結した事案である」と主張した。
この談話が反論の対象としているのは、6月11日に開催された米韓核協議グループの会合や、6月10日に行われた日米拡大抑止協議であるとみられる。日本外務省の発表によれば、後者の協議では、日米双方が「北朝鮮の完全な非核化」へのコミットメントを改めて確認している。
しかし現実には、北朝鮮は核保有を既成事実化しようとしており、非核化という目標そのものを否定する姿勢を強めている。それでもなお、日本や国際社会はなぜ朝鮮半島の非核化を追求し続ける必要があるのだろうか。
1 日本の安全保障
まず、日本の安全保障にとって北朝鮮の非核化が必要であることに大きな異論はないだろう。
北朝鮮は日米を敵対勢力と位置付け、日本本土に到達可能な弾道ミサイルや核戦力の増強を続けている。とりわけ2022年に最高人民会議が採択した「核戦力政策法」は注目に値する。同法は核兵器の使用条件を定めているが、「核の先制不使用」を明示していない。そのため、北朝鮮指導部が差し迫った脅威が存在すると判断した場合には、非核攻撃に対しても核兵器を使用し得るとの解釈を許容している。
日本の最新の安全保障関連文書も、北朝鮮が今後も核・ミサイル戦力および即応態勢の維持・強化を進めるとの見通しを示している。その上で、北朝鮮の軍事動向は「我が国の安全保障にとって従前よりも一層重大かつ差し迫った脅威」であり、「国連安保理決議に従った北朝鮮の完全な非核化」を目指すとの方針を明確にしている。
日本は専守防衛を基本としており、自ら武力紛争を開始することは想定していない。しかし、日本や在日米軍施設への攻撃を契機として紛争が発生し、事態がエスカレートした場合、北朝鮮の核戦力が存在する限り、日本は常に核使用のリスクに直面することになる。非核化は、この根本的な脅威を除去するための不可欠な条件なのである。
2 核不拡散体制
第二に、国際的な核不拡散体制を維持・強化していく観点から、朝鮮半島の非核化は欠かせない。仮に北朝鮮による核保有が完全に既成事実化され、それによって決定的な不利益を被ることもなく体制維持に成功したという認識が広まれば、核兵器保有への政治的・戦略的ハードルは大きく低下しかねない。
北朝鮮の核兵器不拡散条約(NPT)からの脱退宣言の法的効力については疑義が存在する。また国際社会は一貫して北朝鮮を正式な核兵器国として認めていない。しかし、それにもかかわらず北朝鮮が事実上の核保有国として存続し続けるならば、「核兵器を保有してしまえば既成事実化できる」という危険な前例を残すことになる。
近年のイラン情勢の見方次第では、核兵器製造能力や核関連技術を保持するだけでは必ずしも外部からの攻撃を抑止できないとの認識が醸成されかねない。その結果、「体制維持や抑止力の確保には実際の核兵器保有が必要である」という主張が説得力を持つようになれば、北朝鮮型の核開発モデルに追随する国家が現れる可能性も否定できない。
だからこそ、北朝鮮の核保有を既成事実として受容するのではなく、非核化という原則を維持し続けることが、核不拡散体制の信頼性を支える上で重要なのである。
3 平和的統一
朝鮮半島の非核化は、長期的には朝鮮半島そのものの将来とも密接に関係している。
1992年の「朝鮮半島の非核化に関する南北共同宣言」は、その前文において「朝鮮半島の非核化を通じて核戦争の危険を除去し、平和と朝鮮の平和的統一に有利な条件と環境を創出する」とうたっていた。すなわち、非核化された朝鮮半島こそが平和的統一の基盤であるという認識が、当時の南北双方に共有されていたのである。
もっとも、今日の北朝鮮からそのような平和統一路線を読み取ることは難しい。北朝鮮は韓国をもはや統一の対象ではなく敵対国家として位置付け、その認識を政策に反映させている。さらに、自国の核戦力を体制維持の根幹と位置付け、核保有の恒久化を図っている。
他方、日本や米国も近年は「朝鮮半島の非核化」よりも「北朝鮮の完全な非核化」を重視するようになっている。また、日本の最新の政策白書においても、「朝鮮半島の平和的統一」という表現はほとんど見られず、北朝鮮の軍事的脅威への抑止と対処を通じて、まずは朝鮮半島の平和と安定を維持することに重点が置かれている。
しかし、より長期的な視点に立てば、朝鮮半島が法の支配を尊重し、民主的かつ平和な統一国家として再建され、非核兵器国として国際的な不拡散義務を遵守することは、日本の安全保障と国際的な核不拡散体制の双方にとって望ましい将来像である。
北朝鮮が「非核化は終結した事案である」と宣言したとしても、それによって非核化の必要性が失われるわけではない。むしろ、北朝鮮が核保有を既成事実化しようとしている現在だからこそ、日本と国際社会は、なぜ非核化を追求するのかという原点を改めて問い直す必要がある。
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