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2026-06-13 00:20
ガザ和平計画の停滞―問われるイスラエルとハマス双方の政治的意思
久保 有志
国際公務員
6月1日付のワシントン・ポスト紙は、トランプ政権が主導するガザ和平計画が停滞状態に陥っていると報じた。同計画は、2025年9月に米国政府が公表した「ガザ紛争終結のための包括的計画」であり、イスラエル・ハマス間の戦闘終結、ハマスの武装解除、そしてガザの復興・再建を一体的に進めることを目的とする20項目の和平構想である。計画の第1段階である停戦と人質解放は既に実現した。しかし、第2段階として構想されたガザの新たな統治機構の設置、国際安定化部隊の展開、ハマスの武装解除、さらには復興・再建については、現時点で大きな進展が見られない。
報道によれば、パレスチナ人専門家による暫定統治機関や新たな警察組織は依然としてガザ域内で活動を開始しておらず、国際安定化部隊も構想段階にとどまっている。また、復興を担う「平和評議会」に対して約170億ドルの拠出が表明されているものの、実際の資金拠出や事業執行はほとんど進んでいない。なお、ガザ全体の復興には約700億ドルが必要と見積もられている。停戦後もイスラエル軍による軍事行動とハマス側の抵抗が続いており、治安環境は依然として不安定なままである。こうした停滞の最大の要因は、やはりハマスの武装解除問題にある。ハマスの非武装化が実現しない限り、ガザにおける持続的な治安の安定化は望めず、その先にある本格的な復興・再建も進まない。治安状況が不透明な中で、各国政府や国際機関が長期的な財政支援に踏み切ることは容易ではない。
ロイター通信によれば、「平和評議会」は2026年3月、ハマスに対して約8か月間の工程表に沿った段階的な武装解除計画を提示したという。この計画には武器の引き渡しや地下トンネル網の破壊などが含まれている。しかしハマス側は、イスラエルが停戦合意に違反しながら占領地域を拡大していると主張しており、さらに将来的なパレスチナ国家樹立への政治的展望が示されていないことも、武装解除に応じない理由として挙げている。一方、イスラエルにも妥協しにくい事情がある。国際安定化部隊の構想には同意しているものの、ハマスが停戦後も武力抵抗の姿勢を維持している現状では、自国の安全保障に関わる問題を第三者に委ねることには強い慎重論があるだろう。2023年10月のハマスによる大規模攻撃は、イスラエル社会に深刻な安全保障上の衝撃を与えた。そのため、たとえ和平プロセスの途上であっても、安全保障上の脅威が存在すると判断されれば、それを軍事力によって排除しようとする傾向は容易には変わらない。加えて、中東情勢をめぐる国際社会の関心は近年イラン問題へと大きく移行している。こうした中で、本年10月に総選挙を控えるネタニヤフ政権にとって、ガザ問題で政治的リスクを伴う譲歩を行う誘因は乏しい。また、本来であれば武装組織として解体が求められるハマスが、和平計画の履行に関する当事者として位置付けられていること自体も、このプロセスの難しさを示している。
もっとも、現在の議論はしばしば「治安の安定化が先か、復興が先か」「武装解除をどのような手順で進めるか」といった技術的論点に集中しがちである。しかし、問題の本質はそれよりも根深い。イスラエルにとって問われているのは、復興の先にあるガザを含むパレスチナ国家の存在を最終的に受け入れる意思があるのかという問題である。他方、ハマスにとって問われているのは、イスラエル国家の存在と生存権を認め、武力闘争を放棄した上で、自らの武装組織としての役割を終わらせる覚悟があるのかという問題である。ガザ和平計画が直面している行き詰まりは、武装解除の工程や復興資金の不足だけで説明できるものではない。究極的には、イスラエルとパレスチナの双方が相手の存在を前提とする政治的秩序を受け入れる意思を持てるかどうかにかかっている。その意味で、現在停滞しているのは和平計画そのものではなく、和平を成立させるために不可欠な政治的決断なのである。
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