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2025-11-08 08:45

「言論の自由」がなく「貧乏の自由」に陥る共産党宣伝「自由な共産主義」

加藤 成一 外交評論家(元弁護士)
 最近、共産党は「自由な共産主義」について、オンラインや赤旗で、主として青年、学生、労働者、民青同盟員、青年党員らに対し大宣伝活動を展開している。これは旧ソ連や中国の例から、「共産主義には自由が無い」との「反共攻撃」を打ち破り、若い層を中心に党勢拡大を図る狙いがある。なぜなら、共産党はこのような「反共攻撃」が党勢後退の最大の原因と考えているからである(赤旗2024年6月12日)。そこで、共産党志位和夫議長は、新たに「Q&A共産主義と自由=資本論を導きに」(新日本出版社)を出版し、マルクス・エンゲルスが「共産党宣言」(1848年)で「各人の自由な発展が万人の自由な発展のための条件である結合社会」が共産主義社会であると宣言したように、マルクス「資本論」を引用し、共産主義社会は生産手段が国有化・社会化され資本家が絶滅されるから、資本家による労働者に対する一切の搾取が根絶され、利潤第一主義が無くなり、労働時間が短縮され、自由な時間が増加し、人間性が回復し、人間の自由が花咲く理想の社会であると宣伝している(赤旗2025年11月1日・11月5日=志位議長と斎藤幸平東大准教授との対談「資本論と現代を語る」参照)。
 
 然し、共産党が「理想社会」であると宣伝するマルクス及び共産党の上記「各人の自由な結合社会」である「共産主義社会」及び「自由な共産主義」なるものはきわめて抽象的であり、全く具体性を欠き、実現の時期・可能性も全く不明である。すなわち、上記「共産主義社会」及び「自由な共産主義」において、第一に共産党自体が存在するのかどうかが不明であり、立法・司法・行政の国家機関が存在するのかどうか、生産・流通・消費・競争原理・技術革新・生産性向上・経済成長・外国貿易・社会保障・外交防衛・安全保障はどうなるのかなども全く不明である。これらの諸点について、志位議長や共産党は一切言及しない。ひたすら、共産党は「生産手段の社会化」により搾取が無くなり、自由な時間が増加し、人間性が回復し、理想社会が実現するなどと宣伝するのみである。上記の諸点が具体的に明らかにならなければ、共産党宣伝の「社会主義社会」及び「自由な共産主義」はまさに、エンゲルスが言う具体性のない「空想的社会主義」(エンゲルス著「空想から科学へ」)であると言うほかない。
 
 そして、何よりもマルクス及び共産党宣伝の「共産主義社会」及び「自由な共産主義」においても、集会・結社・言論・出版・表現の自由が保障されるかどうかは極めて重要であるが、この問題についても、志位議長や共産党は一切言及しない。「言論の自由の核心は政府当局者に対する批判の自由である。」(小泉信三著「共産主義批判の常識」)。旧ソ連、中国、北朝鮮でも「言論の自由」が憲法上保障されるが、すべて「社会主義体制を強化するため」との条件付きであるから、社会主義政権や政府当局者を批判する「言論の自由」はあり得ないのであり、「反革命罪」等として死刑等の厳罰に処される(1936年ソ連「スターリン憲法」参照)。このような、旧ソ連、中国、北朝鮮などの社会主義国家における死刑を伴う極めて厳しい言論弾圧を考えれば、共産党宣伝の「共産主義社会」及び「自由な共産主義」においても「言論の自由」は保障されない可能性が極めて高いと言えよう。旧共産国であった旧東ドイツ出身の元ドイツ首相のメルケル氏も「東ドイツは独裁国家であり言論の自由はなかった。独裁と不自由と不正の条件下で暮らした。」(メルケル著「自由」上226頁。下370頁KADOKAWA)と明言している。
 
 共産党は生産手段の国有化・社会化を万能視するが、たとえ生産手段を国有化・社会化しても、労働生産性が向上し経済が成長発展しなければ、賃金も上昇せず、生活水準が向上しないことは自明である。そのためには、企業間の競争原理に基づく不断の技術革新が不可欠であるが、生産手段が国有化・社会化された共産党宣伝の「共産主義社会」および「自由な共産主義」では競争原理が十分に働くのかどうか、技術革新が活発に行われるのかどうか、労働生産性は向上するのかどうか、新製品・新商品が次々に開発されるのかどうか、国際競争力が向上するのかどうか、貿易による外貨準備高が拡大するのかどうか、などは極めて疑問である。なぜなら、生産手段の国有化・社会化により競争原理を欠く国有・国営企業では、技術革新が停滞し、労働生産性が向上せず、経済成長を望めず、賃金低下、生活水準低下により、労働者は「貧乏の自由」に陥る可能性が極めて高いからである。このことは、旧ソ連が生産手段を国有化・社会化し、国有・国営企業による官僚主導の計画経済を行ったために経済が長期停滞し崩壊した事実が証明しているのである。なお、共産党は「搾取」を理由に労働生産性を向上させる技術革新には反対であり、リニア中央新幹線建設にも反対し、北海道及び熊本における大規模半導体企業への政府資金投下にも反対し、大阪・関西万博にも反対しており、およそ日本経済の成長発展にはすべて反対しているのである。
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