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2025-10-31 10:45

力量問われる高市安保外交ー日米首脳会談ー

鍋嶋 敬三 評論家
 高市早苗首相が就任してわずか1週間後の日米首脳会談(10月28日・東京)は従来とはかなり趣を異にした。女性初の自民党総裁そして首相になった高市氏が高関税政策で世界を翻弄するドナルド・トランプ米大統領を迎えての初顔合わせだったが、その成果を示す共同声明の発出も共同記者会見も行われなかった。公開されたのは会談冒頭の発言と米海軍横須賀基地での原子力空母「ジョージ・ワシントン」での演説くらいである。トランプ氏は「日本は最も重要な同盟国」と持ち上げて米国からの防衛装備品調達に謝意を示しつつ、関税の日米合意は公平だと主張して経済的な利益にかかわるテーマが関心事であることを示した。首脳間の公式文書は日米関税合意の履行確認、重要鉱物の供給確保の努力、さらに政府間では日米間投資(共同ファクトシート)、7分野の科学技術協力や造船能力強化の協力に向けた覚書であった。トランプ氏は米大使公邸で日本の企業経営者を招いた夕食会で対米投資や米製品の輸入拡大を求めた。トランプ氏の最大の関心事はここにあったと言えるのではないか。

 トランプ氏は「日本が防衛力を大幅に強化していることは承知している」としながらも「日本からの新規で大量の戦闘機やミサイルといった防衛装備品の発注を感謝」「貿易も大変ありがたい」述べた。訪日の課題の中心が巨額の取引(ディール)をプッシュすることにあったのを裏付けている。2日後の米中首脳会談を意識してか、アジアを巡る戦後最も厳しい安全保障環境の認識への直接の言及はなかった。日米欧の同盟諸国が公にしてきた法の支配など国際的な民主主義体制を支える理念は公言されなかった。脅威の元である中国、北朝鮮やロシアは安心したのではないか。

 高市首相は安倍晋三元首相が2016年に提唱した「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」構想の推進を掲げた。「安倍氏は良き友人」と繰り返すトランプ氏に向けて「日米同盟の新たな黄金時代を大統領とともに作りあげたい」と明言した。タイとカンボジアの停戦、中東の合意実現を「歴史的偉業」と大統領の平和貢献を持ち上げつつ、「日米は世界で最も偉大な同盟になった」と言い切った。首相は所信表明演説でも「世界の真ん中で咲き誇る日本外交」を外交方針に掲げた。そう言うからには相当な安全保障の貢献が求められる。言葉が上滑りして実態が伴わなければ、それなりの対価を払わされる。両首脳が演説した原子力空母には「力による平和(PEACE THROUGH STRENGTH)」の標語が掲げられていた。日米同盟の抑止力、対処力を高め日米韓、日米比、日米豪印などの多角的な安全保障協議体も推進しなければならない。

 防衛力強化には裏付けになる財源の確保が必須だ。2022年に岸田文雄内閣が決定した国家安全保障戦略の「安保関連3文書」で、2027年度までに防衛費の対国内総生産(GDP)比2%を達成する目標を掲げた。岸田首相は国債増発に慎重で防衛費1兆円分を増税で賄うため法人、たばこ、所得3税の増税を決めたが、所得税増税の時期はいまだに未定だ。日米の首脳会談を受けた防衛相会談(10月29日)で小泉進次郎防衛相は安保3文書の改訂を2026年末とし、防衛費2%達成の時期を2027年度から2025年度に引き上げる目標を明言した。これに対してヘグセス国防長官は「速やかな実行を期待する」と日本の約束履行を見守る姿勢を明確に示した。防衛費増額の財源を巡って連立を組む日本維新の会は増税に反対で、問題の処理によっては連立の行方を左右しかねない難題として早速、高市首相の政治的力量が問われることになる。
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