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2025-09-07 18:20

トランプ2.0時代の中日関係

王 広涛 復旦大学日本研究センター准教授
 トランプ2.0時代が始まってから、すでに半年が経過した。第1期においては中国への攻撃に焦点を当てていたのに対し、第2期では「MAGA」の旗印の下、米国の国益に不利とみなされるあらゆる国や地域に対して、いわゆる「対等関税」と称する報復措置を次々に発動している。各主要国は強い不満を抱きつつも、トランプとの協議の新たな方法を模索せざるを得ない状況にある。中国はトランプ関税に対して対抗措置を取ると同時に、外交交渉にも積極的に取り組んでいる。こうした動きのなかで、中日関係にも変化の兆しが見えてきた。

 まず結論を述べれば、トランプ2.0は「不本意ながら」中日関係の改善を後押ししている。両国はその「不確実性」に対応するため、リスク回避の方策を探るようになったからである。対等関税はほぼ全ての国を対象としており、同盟国である日本もその打撃を受け続けている。対米強硬策と同時に交渉を展開する中国の姿勢は、日本にとっても一定の示唆を与えるだろう。このような「不確実性」の拡大は、逆に中日間の協力の余地を広げたといえる。さらに、日本と韓国の産業構造が類似していることから、対中政策において日韓両国が歩調を合わせる傾向も見られる。最近行われた中日韓農業相会合は、三国間の前向きな相互作用を象徴する出来事の一つであろう。
 
 次に、日本国内政治の変化も中日関係に影響を及ぼしている。7月の参院選で自民党が多数議席を失った。中国は基本的に日本国内政治の急激な変化を望まない。もちろん、自民党内では石破茂首相が「親中」と批判されることも少なくない。石破氏が歴史認識に関して発した言葉が中国に利用されるのではないかとの批判もあるが、これは論理的に混乱を孕んでいるように思う。「石破談話」をめぐる議論は、主に日本国内の政治的立場の違いが戦争や歴史をどう捉えるかという問題を反映している。中国にとって抗戦勝利80周年を記念する式典や軍事パレードは既定路線であり、習近平国家主席の演説においても、日本を「利用」あるいは「批判」する直接的な表現は目立たず、中国の平和的発展路線と世界平和を守る決意の強調に重点が置かれていた。
  
 最後に、中日関係の将来を展望してみたい。今年は中国抗日戦争勝利80周年であると同時に、日本の敗戦(終戦)80周年にもあたる。この節目に中日関係を前進させることは容易ではないが、皮肉にもトランプがその「後押し」をしている側面は否定できない。ただし、中日関係の改善をトランプに依存すべきではなく、両国が主体的に関係改善を追求すべきである。
  
 石破政権発足以降、中日首脳会談は多国間の場で二度行われただけである(習近平主席および李強首相)。これは正常な状態とは言い難い。首脳間の交流は、安倍政権後期にみられたような「シャトル外交」の形で再構築されるべきだ。今後、韓国でのAPEC首脳会議や日本での中日韓首脳会議を契機に、より多くの首脳間対話が実現することを期待したい。同時に、中日、さらには中日韓が実務的な分野で協議を深め、三国協力やFTA交渉に資する展開が進むことを望んでいる。
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