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2024-10-09 18:39
(連載2)イスラエルは「狂人理論」を駆使できるのか
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
加えて留意しておくべきなのは、トランプ氏は、決して大規模戦争を望んでいると言ったわけでも、イランを核兵器で攻撃するべきだと言ったわけでもないことだ。この機会に核施設の破壊を行うべきだという発言は、実は、それを行ったうえで限定攻撃にとどめて戦争の大規模化を防げれば一番いいシナリオだ、というニュアンスもある。だが、イラン側も、核施設をイスラエルの攻撃から守るための万全の態勢を取っているはずだ。そこで、果たしてイスラエル側にそれをかいくぐって核施設だけを限定攻撃する能力があるのか、という点が問題になる。ドローンを駆使して市街地で暗殺攻撃をしたり、レバノン各地でポケベルを爆破させたりするのとは、次元が違う。
2022年に大ヒットした米映画『トップガン・マーヴェリック』は、「ならず者国家」が建設して稼働させようとしているウラン濃縮プラントを、主人公たちが戦闘機で破壊する作戦を中心に物語が展開した。この映画の中の「ならず者」国家は、中東の国のようだった。トランプ大統領は、まさにこの映画を再現する作戦行動をイスラエルがとることを止めてはいけない、ということを言っているわけである。しかし、映画のような実施不可能な作戦を、イスラエル空軍が行えるとは、到底思えない。イスラエルは、かつて1981年に戦闘機を使ってイラクのサダム・フセイン政権が開発中だった軍事施設を破壊してみせたことがある。しかし今、それを最大警戒中のイランに対して行うのは、ほぼ不可能と思われる。
『トップガン・マーヴェリック』は、ドローンが航空攻撃の主流になり、パイロットたちの役割は軽視されてきた、という現代的な時代背景を、モチーフにしている。どれほどドローンが駆使されようとも、人間にしかできないことがある、というテーマにそった物語だった。しかしイスラエル軍が、そのような発想にとらわれることは、全く想像できない。イスラエルは、ドローンによる標的殺害の方法を世界に先駆けて開発した国である。その方法を使って、イランの核科学者を暗殺してきている。したがってイランの防空システムを突き破るミサイルあるいはドローンによる攻撃を成功させるしか、方法はないだろう。エリート・パイロットが現場で発揮する奇跡的な能力や判断ではなく、イスラエルの軍事力の技術的能力で、イランを圧倒するしかない。果たしてそれは可能なのか。
現在、ネタニヤフ首相は、必死の作戦立案をすると同時に、アメリカの参戦を期待しているだろう。アメリカが攻撃に加わってくれれば、事態は一変する。しかしアメリカの参戦の可能性はないだろう。「狂人理論」が効果を発するのは、交渉に向けた計算と、能力の優位とがあるときのみである。今のイスラエルには、前者は決定的に欠落している。後者についても、イランに対して保持しているのかは不透明だ。「狂人理論」を駆使できない「狂人」は、まさに文字通りの「狂人」として立ち現れて、終わってしまうしかない。ネタニヤフ氏は、「狂人理論」を駆使する戦略家なのか、単なる「狂人」なのか。近く明らかになろうとしている。(おわり)
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(連載1)イスラエルは「狂人理論」を駆使できるのか
篠田 英朗 2024-10-08 18:31
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篠田 英朗 2024-10-09 18:39
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