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2024-05-18 23:12
なぜ「先進国革命」は起こらないのか?
加藤 成一
外交評論家(元弁護士)
日本共産党は党綱領五で「これまでの世界では、資本主義時代の高度な経済的・社会的な達成を踏まえて、社会主義的変革に本格的に取り組んだ経験はなかった。(共産党は)発達した資本主義の国での社会主義・共産主義への前進をめざす」と規定し、いわゆる「先進国革命」を目指している。共産党の志位議長は「発達した資本主義国から社会主義に進んだ国はない。その理由は資本主義を延命するための様々な仕掛けが発達しているからである。その一つである巨大メディアは財界・大企業の強い影響下に置かれ、米国とも深い結びつきがあるため、権力の監視役の役割を果たしていない」(赤旗2024年5月1日)と述べ、「巨大メディア」を「先進国革命」が困難である「理由」の一つに挙げている。
確かに、大新聞やテレビなど「巨大メディア」の世論形成をはじめとする社会的政治的影響力は絶大である。また、権力の監視役としての役割も大きい。公共放送であるNHKを除き、コマーシャルや株式保有などを媒介として「巨大メディア」が財界・大企業の一定の影響下にあることも事実であろう。しかし、だからと言って、「巨大メディア」が財界・大企業に従属し、そのために言論の自由や独立性を欠くとは言えないであろう。日本の大新聞、とりわけ朝日、毎日、東京の政権批判は徹底しており、権力の監視役の役割を十分に果たしていることは明らかである。また、「巨大メディア」が米国とも深い結びつきがあるとの指摘はその趣旨も事実関係も明確ではない。
「先進国革命」が起こらない最大の理由は、「巨大メディア」の問題ではなく、日本をはじめ欧米先進資本主義国では、100年以上前のマルクス、エンゲルス、レーニン、スターリンの時代に比べ労働者階級の生活水準が向上したからである。確かに、日本では非正規雇用の増加や格差問題、少子高齢化など、解決すべき諸問題は山積しているが、先進各国では失業率は概ね5パーセント以内であり(日本は2パーセント台)、名目賃金も年々上昇している。さらに、「福祉国家」の理念が普及し、先進各国では年金、医療、介護など社会保障制度も整備されている。マイカー、マイホーム、海外旅行へ行く労働者層も少なくない。このような労働者階級の生活水準の向上は、先進各国の持続可能な経済成長や、先進各国の労働運動、革新政党の活動によるところであるが、生活水準向上は、社会主義革命の条件とされる労働者階級の「階級意識」(ルカーチ著「歴史と階級意識」283頁以下未来社)にも影響し、先進国革命を困難にすると言えよう。
上記の通り、労働者階級の生活水準が向上すれば、労働争議も激減し、階級闘争も低調になり、先進国革命は起こらなくなる。これは生活水準向上という「構造的問題」である。西欧共産党や日本共産党の党勢衰退も労働者階級の生活水準向上という「構造的問題」である。このことが、日本共産党のみではなく西欧共産党も含め、先進国革命が起こらない最大の理由である。したがって、もし先進国革命の可能性があるとすれば、先進資本主義諸国の連鎖的経済破綻による労働者階級の生活破綻であろう。
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