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2022-09-07 17:43
内閣改造、「女性」登用すれば多様性ということではない
伊藤 洋
山梨大学名誉教授
「性的少数者を差別したり、ジェンダー平等を否定したり、人権感覚が疑われる言動を繰り返す人物を、なぜ政府の職に就けたのか。『多様性の尊重』は口先だけで、差別を容認していると批判されても仕方あるまい。岸田首相の責任を厳しく問う」(2022/08/20朝日新聞「社説」)。岸田第二次改造内閣では、世上でいたって評判良からぬ杉田水脈という衆議院議員をなんと総務政務官として起用した。政務官というのは大臣、副大臣に次ぐ重要ポストで、行政評価や統計などを担当するポストだ。この女史、かつて、今は亡き月刊誌「新潮45」に、「同性カップルは子供を作らない、つまり『生産性』がない」などという持論を展開し、この為に集中砲火を浴びて、雑誌は廃刊の憂き目に遭遇、当人は満身創痍に見舞われ、ついにはこれを「不適切な記述」と認めさせられるという「武勇伝」を後世に残している。
それにも懲りずに直後に再び、性暴力対策予算などを議論する自民党の党内会議で「女性はいくらでもウソをつける」と発言し、またもやインターネットの網目をおおいに揺るがせた。この人の言説は昨日今日に初めてではなく、2014年、衆院本会議場の演壇から「男女平等などは、絶対に実現しない、それは反道徳の妄想だ」とまで演説し、「男女共同参画社会の構築」の主題に対して真っ向から反論する意見を開陳したことでさらに一段と悪名に磨きをかけた。
思うに典型的な男性優位社会たる日本政治場裏にあって、女性である杉田議員が、自らの「女性性」を「前面(ア・プリオリ)」に打ち出しつつ、それを武器にして男装で男社会に迎合するという擬態を演じているのである。そして、その同性へ裏切りが男社会に向かって「ジャンヌ=ダルク」を偽装することにもなっているのであろう。この種の発言は、性差を主張する男たちの場では非常に喜ばれるに違いない。そして、その幼児性こそが唾棄すべきものであって、言論の真剣勝負の場であるべき政界からは完全に一掃しなくてはならない。
中でもこの発言に感動したらしいのが今は亡き安倍晋三元自民党総裁であった。この女性をさっそく衆院選の比例中国ブロックの名簿一位に優遇することで自党にスカウトし、以後度重なる選挙で当選を重ねついに政務官に上ってきた、というわけである。岸田首相は、その政策の骨格に「多様性が尊重される社会の構築」を掲げる。その口先にこういう人物を配置して、なお自らの政策が実行できるとでも思っているのであろうか。岸田氏は、選択的夫婦別姓や同性婚など、時代が要求している問題に対して誠実に向き合っていくべきだ。それなのに、すでに過去においてその「主題」に対する思想が明らかになっている人材をあてるのであれば、もはや議論に成熟の機はないであろう。もし、首相がそれを良としてこの人を充てたのなら正しく欺瞞というべきである。
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