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2022-08-22 08:35
対中外交は「強い姿勢」で当たれ
鍋嶋 敬三
評論家
ペロシ米下院議長の台湾訪問(2022年8月2~3日)は新たな「台湾危機」のきっかけに過ぎない。トランプ時代に激化した米中対立がバイデン政権でも対中圧力の強化、2022年に入ってロシアのウクライナ軍事侵攻以降、中露の対米連合戦線が進み、新たな世界の秩序構築をめぐる主導権争いが激化する一環だからである。日本政府は日米同盟、日米欧など自由・民主主義国家群の連携強化を対中外交の「後ろ盾」とする。尖閣、台湾問題などで対立が激化する一方で、「対話による協力」(岸田文雄首相)の姿勢も見せるが、危機に際して対中戦略の軸足をどこに置くのか、一般国民には極めて分かりにくい。軍事的強硬路線をとる習近平指導部の中国と「対話」は成立するのか?日本が対立を恐れて下手(したて)に出るような態度では対等な交渉にはならない。民主主義陣営のアジアの代表としての立場を生かして「強い姿勢」で対中外交に当たるべきである。
ペロシ訪台に反発した中国は8月4日から台湾を取り囲む6カ所の演習区域を設け、海軍、空軍、ミサイル部隊を動員した大々的な実弾演習を実施して弾道ミサイル11発を発射、そのうち5発は日本の排他的経済水域(EEZ)に落下した。1995ー96年に次ぐ「第4次台湾危機」とも言える緊張を高めた。故安倍晋三首相の「台湾有事は日本有事」の警鐘が間近に聞こえる。先進7ヶ国(G7)外相は8月3日共同声明を発し、力による一方的な現状変更の行動中止を要求、日米豪3ヶ国外相も軍事演習の即時中止を要求した。米ホワイトハウスは中国の駐米大使を呼び出し、中止を求めた。しかし、日本政府の対応は違った。日本の国益が侵されているのに、外務事務次官が電話で駐日大使に抗議しただけで国家安全保障会議(NSC)も招集していない。日米の姿勢は対照的で米欧と一緒なら声明に参加するが、日本単独では中国に強い姿勢を見せない。自民党内から「対中弱腰外交」の批判が噴き出したのも当然だ。
むしろ中国が対日強硬姿勢を強めていることが印象的である。G7共同声明を出したことで、8月4日にカンボジアで予定されていた2020年11月以来となる対面の日中外相会談を直前になって一方的に中止を通告してきた。中国外務省は同日の報道官会見で「G7 は世界のコミュニティを代表する立場にない。その見解はたかだか世界のちっぽけな一部に過ぎない」とこき下ろした。台湾問題の国際化を極度に嫌ったのである。中国海警局公船による尖閣諸島海域の接続水域侵入は8月21日で連続128日に達した。領海侵犯も重ねる。公船の日本漁船追い回しなどで「実効支配」の実績を誇示する。9月の日中国交正常化50周年を「祝う」どころではない。日本政府は秋の日中首脳会談を模索していると伝えられるが、軍事力を使って現状変更を続ける習近平体制の下では、日中関係の発展、アジアの安定に意味を持つ首脳会談は想定できない。
日本が対中外交でふらつくようでは対米関係にも影響が生じうる。バイデン政権はトランプ政権よりも対中融和的とみられていたが、そうではない。2021年3月の暫定国家安全保障戦略指針で対中外交には「強い立場」で当たると明記した。米中外交トップ会談では公開の激しい応酬が世界を驚かせた。バイデン大統領は21年11月、習近平主席とのオンライン会談で台湾問題の「六つの保証」を改めて提起。米中国交後も台湾に武器を売却する方針を明確にしたもので、台湾関係法とともに台湾政策の基本だ。しかも前年8月にこれを機密解除して公開、台湾外交部(外務省)が「米国が台湾の安全保障に固い約束をしたもの」と感謝の意を表した。米議会超党派の米中経済安全保障調査委員会も年次報告書(21年11月)で中国軍の侵攻能力強化で台湾海峡の「抑止が不確実」と警告、米国の政治的意志が弱い場合には抑止に失敗する可能性にも言及するほど、危機感は強まっていた。ペロシ下院議長の台湾訪問はこの延長線上にあることを日本政府の当局者は肝に銘じてほしい。
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