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2022-05-26 07:13
民主陣営、反転攻勢のカギは結束強化
鍋嶋 敬三
評論家
ロシアによるウクライナ侵略3ヶ月の節目の5月23~24日、東京で日米首脳会談、米主導のインド太平洋経済枠組み(IPEF)が発足、日米豪印4ヶ国の協力枠組み「Quad(クアッド)」首脳会議も開催された。第二次大戦後の国際秩序を覆しかねない動乱の中で、ロシアや中国、北朝鮮などの独裁的な権威主義国家体制に対する自由・民主主義陣営の反転攻勢への転機となるだろうか。兵器やエネルギー、インフラ投資などへの依存で露中批判に踏み切れない国が多い中で、世界秩序の根幹をなしてきた法の支配と領土の一体性などの原則が踏みにじられているのが大きな問題である。焦眉の急は欧州、インド太平洋地域を含めた同盟・パートナーシップの結束の強化だ。安倍晋三政権当時から「自由で開かれたインド太平洋」構想を主唱してきた日本の責任と役割はことのほか大きい。それを日本人自身が自覚するときである。
ロシアの侵略を目の当たりにして国防力強化に慎重だったドイツが覚醒、北大西洋条約機構(NATO)基準の国防費の国民総生産(GDP)2%以上を目指す方針に大転換。中立国のフィンランドとスウェーデンがともにNATOに加盟申請した。第二次大戦の惨禍を教訓として生まれた国連は四半世紀後の今日、ロシアなど安全保障理事会常任理事国による拒否権乱発で平和維持機能が不全に陥った。冷戦後の米国一極時代が終わり、国際秩序崩壊の兆しが見える。欧州の戦乱もこれを反映している。それは中国を震源地とするインド太平洋地域の安保危機と連動しつつある。中国、ロシア、核ミサイル開発に邁進する北朝鮮(それにイランも含めて)が「反米連合」へ連携を強めてきたためだ。
日米共同声明でバイデン大統領が核を含む同盟国への「拡大抑止の確保が決定的に重要」と確認、岸田文雄首相が「ミサイルの脅威への対抗能力を含め、防衛に必要なあらゆる選択肢を検討する決意」を表明し「反撃能力」保持の方針を明確に打ち出した。年末までの日本の新国家安全保障戦略の策定に当たり米国との戦略すり合わせが必須だ。経済安全保障で重要技術の保護、サプライチェーン(供給網)の強靱性確保のための協力のほか、日米経済政策協議委員会(経済版2+2)の7月開催も合意した。米国が発表したIPEFは中国に対抗するための経済秩序作りだ。参加国はクアッドのほか、韓国、インドネシアなど13ヶ国、貿易の円滑化、サプライチェーンの強化、インフラ整備などがテーマだが、関税の引き下げには踏み込まず、トランプ政権が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)には代わり得ない。対中組織であることは東南アジア諸国連合(ASEAN)10ヶ国のうちカンボジア、ラオス、ミャンマーが不参加であることからも読み取れる。
クアッドの開催にはロシアから大半の兵器の供給を受けるインドの参加の確保が重要だった。共同声明ではロシアに言及せず「武力行使や、現状変更のいかなる一方的な試み」にも反対を明記、地域内外で主権、領土の一体性などの「原則を促進するため断固として共に行動」すると確認した。インドの対露関係に配慮する一方、武力紛争を繰り返す中国に対する意思表示でもある。「インド太平洋」への関与を強めてきたASEAN 、太平洋諸島、欧州連合(EU)との協力の強化もうたった。東シナ海、南シナ海における「係争ある地形の軍事化、海上保安機関船舶と海上民兵の危険な使用、他国の海上資源開発活動の妨害」など現状を変更しようとする「威圧的、挑発的行動に強く反対する」と明記した。現状変更を試みる中国の行動を指したものだ。中国側は直ちに「根拠のない非難」(中国外務省報道官)と批判したが、もとは中国自身が作り出した地域の安全保障への危機である。クアッドは中国の強硬姿勢に対応して安全保障面での協力強化に傾斜しつつある。日本周辺での中露の爆撃機6機による「合同戦略飛行」(5月24日)は日米やクアッドに対する示威行動と見られるが、このような軍事挑発こそ地域の緊張を高めるのだ。
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