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2007-10-09 12:36
とうとう大西洋にまで乗り出した中国海軍艦艇
秋元一峰
海洋問題研究者、元海将補
本年4月24日に「中国海軍が空母を保有する日を考えよう」、6月19日に「再び、中国海軍が空母を保有する日を考えよう」、また8月14日に「三度、中国海軍が空母を保有する日を考える」と題し、続けて本欄に中国の空母保有を危惧する拙文を投稿してきた。本年8月に都内で開催された海洋安全保障問題に関するセミナーで、招聘された中国の専門家の一人は「海外で、中国の空母保有を危惧する向きがあるが、中国の海軍は平和目的であり、そのような計画はない」と述べ、また「海外で、中国海軍がシーレーン防衛のために外洋活動を始めたとの論調もあるが、中国海軍の任務は中国の近海の防衛であり、シーレーン防衛はアメリカ海軍が担ってくれている」とも発言した。ところが、中国海軍は着実に外洋へ外洋へと行動範囲を拡大している。本稿では、中国海軍の戦略的展開の実態をお知らせしたい。「シーレーン防衛はアメリカ任せ・・・」が欺瞞であるとすれば、「空母保有はない・・」とする発言にも疑問符がつくことになる。
2007年7月、中国海軍のミサイル駆逐艦「広州」が補給艦と共に欧州への遠洋航海に出立した。艦隊はロシア、イギリス、スペインそしてフランスに親善入港すると共に海上共同訓練を実施している。訓練としては初歩的な洋上捜索・救難であったが、中国海軍にとって欧州の国々との最初の共同訓練となった。中国海軍は2005年以降、着実に行動範囲を拡大してきている。2005年11月から12月に掛けては、ミサイル駆逐艦「深圳」が補給艦と共にインド洋を巡航し、パキスタン、インドおよびタイに親善入港すると共に共同訓練を実施している。インド洋沿岸域における最初の共同訓練となった。次の年、2006年の6月から8月に掛けて、ミサイル駆逐艦「青島」が補給艦と共に北米方面を巡航、アメリカとカナダを訪問している。そして、本年の欧州に繋がる。これとは別に、2007年は、3月にパキスタン主催の多国間共同海上演習「平和2007」に2隻のフリゲート艦を参加させ、9月には、オーストラリアとニュージーランドに艦艇を派遣している。
つまり、「近海防衛」を謳って“ブラウン・ウォーター・ネイビー”を装ってきた中国海軍は、2005年以降、インド洋、太平洋、オセアニアそして大西洋と、その行動範囲を拡大し、“ブルー・ウォーター・ネイビー”に変身してしまったのである。まさに“七つの海”に乗り出す戦略的展開である。かつて、アメリカ海軍のマハン提督は、国家に繁栄をもたらすシー・パワーを構築することを提唱した。マハンのシー・パワー論を拠り所として、アメリカは海洋国家として繁栄していくことになった。中国におけるマハンの研究は極めて盛んである。「日本に留学する中国の学生に、何を学ぶのか問うと、共産主義を学ぶためと答えた。中国に留学するアメリカ人に、何をしに行くのかと聞くと、マハンを勉強するためと答えた」というお噺がある。中国には大きな戦略があることを忘れてはならない。中国海軍を侮ってはならない。これまで警告してきた「中国の空母保有」も現実となる日が来るだろう。日本は、真剣にその日に備えなければならない。
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