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2022-02-17 07:05
欧亜連携目指す米戦略ーQuad・AUKUS両輪にー
鍋嶋 敬三
評論家
ウクライナに対するロシアの軍事侵攻の危機という第二次世界大戦以来の重大局面に世界は直面している。オーストラリアで開かれた第4回日米豪印(Quad=クアッド)外相会合(2月11日)はアジア、欧州を通じて軍事的、経済的威嚇と強制を武器にした中国、ロシアの権威主義体制の民主主義陣営に対する挑戦にいかに立ち向かうかが主題になった。発足当初、軍事色を表面に出さないようにしてきたクアッドだが、議長国のペイン豪外相は「この地域は戦略的不安定が高まっている」「クアッドは(インド太平洋)地域安全保障にコミットするパートナーシップ」と断言した。またウクライナの主権と領土の一体性に強い支持を表明、侵略の抑止と制裁などの対抗措置のため同盟国やパートナー国への支持を明確に主張した。
豪州は米国や英国とのAUKUS(オーカス)で原潜建造に合意しただけに、率先して安保色を強調してウクライナ問題でも積極的な関与を示した。豪州の原潜保有は米国の対ロシア、中国双方への戦略的抑止力の強化に大きく貢献する。米国のブリンケン国務長官は、ロシアの侵略行動で脅かされている「核心的原則」(主権と領土の一体性)を守るために集中的に努力していること、この原則はインド太平洋地域の安定に不可欠で、ウクライナもインド太平洋も含めて危機回避の努力が「一つのもの」であるとの認識を示した。つまり、中露からの脅威は民主主義体制にとって洋の東西を問わず共通のものとして対処しなければならないという考えだ。
クアッドの開催当日にホワイトハウスが国家安全保障会議(NSC)が作成した「インド太平洋戦略」を発表したのは偶然ではない。安全保障面では米国と同盟・パートナー諸国への侵略を防ぐ能力の強化、インド太平洋の安全保障の強化を掲げた。このため、同盟国との「統合抑止力」の推進、相互運用性の強化、台湾海峡の平和と安定の維持、日本や韓国との拡大抑止の強化などの目標を掲げた。「自由で開かれたインド太平洋」の実現のためには、「新時代に向けた集団的能力」が必要であり、それは「地域内および地域を越えた」ところに構築すると明記した。日本、韓国、豪州などの同盟国をはじめ東南アジア諸国連合(ASEAN)、太平洋島嶼国などとの関係強化はもちろん、「クアッドの強化とそのコミットメントに応えること」および「インド・太平洋と欧州・大西洋との間の連携強化」をうたった。米英豪のオーカスの期待に応えることも約束した。バイデン政権のインド太平洋戦略は、米国を軸としてクアッドとオーカスを車の両輪に太平洋と大西洋を結びつける地球大の構想に基づいたものになった。米国自身にそれを実現する力が期待できない現在、同盟国やパートナー諸国の負担分担は当然のことと織り込んでいる。同盟国への期待は膨らむ。
中国の反応も直接的になってきた。クアッドや「戦略」発表の当日、中国外務省の趙立堅報道官は定例記者会見で反クアッド、反オーカスの姿勢を鮮明にした。曰く「クアッド・グループなるものは米国の覇権維持のため中国を封じ込め包囲攻撃するための手段だ。中国封じ込めの同盟を築く試みは支持を得ず何もならない」。また「オーカスの枠組の下での原潜協力は地域の緊張を高め軍拡を誘発し核不拡散を損ねる」と米国の「冷戦思考」や核不拡散についての「二重基準」を非難した。バイデン政権がトランプ時代の対中制裁を緩めず、同盟国や友好国も含めて対中攻勢を強めていることへの強いいら立ちが現れている。米中関係の緊張はさらに強まろう。日本は中国からの尖閣侵攻攻勢、ロシアの北方領土の軍備・軍事演習の強化などの領土・安保危機にさらされている。岸田文雄内閣がなすべきは先進7ヶ国(G7)の一員として中露に対する民主主義国としての旗幟を鮮明にし、日本の防衛力強化と日米同盟を軸に国際的な安保協力の広がりと強化に邁進する戦略的外交方針を内外に発信して世界の安定へ独自の責任を果たすことだ。岸田首相は目の前にある世界危機に右顧左眄する時ではない。
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