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2021-07-15 08:02
中国「三つの記念日」の今日的意味
鍋嶋 敬三
評論家
2021年の7月は、中国に関して三つの重要な記念日が重なった。1971年7月15日にニクソン米大統領が中国訪問計画を電撃発表して今年は50年目に当たる。「米中接近」の予想もできなかった同盟国日本に対する米政府の通告は発表のわずか数時間前で日本政府を震駭させた。戦後世界の勢力地図を塗り替える歴史的転換点となったが、外交、防衛、経済も米国依存の体質と意識が染みついた日本は時代の大転換に取り残された。二つ目は5年前の2016年7月12日。中国が南シナ海全域の主権を主張して人工島の造成など領土の一方的な拡張を進めたことについて、ハーグの仲裁裁判所が裁定で国際法違反として完全に否定、訴えたフィリピンに軍配を上げたことである。中国の敗訴が確定したが、中国は当時も今も裁定を「紙くずだ」と完全に無視して、アジアにおける国際秩序の「書き換え」の姿勢を鮮明にした。
半世紀前にアメリカの力で国際社会に復帰できた共産党独裁の中国は、第二次大戦後に米国主導で成立した国際秩序を覆そうと軍事的、経済的影響力を振るっている。三つ目に習近平共産党総書記(国家主席)が7月1日の党創立100周年記念日の演説で「台湾統一は歴史的任務」とぶち上げた。習近平指導部は英国との香港返還協定に定められた50年間保証の「一国二制度」を有名無実化して香港の自由・民主主義制度の息を止めた。新疆ウイグル、チベット、内モンゴルなどの少数民族の弾圧もすさまじい。演説で習近平氏は「中華民族の偉大な復興の実現」をスローガンとして掲げ「マルクス主義の中国化」を何回も強調して止まなかった。このようにイデオロギーを重視、対外政策で他国、特に弱小国に対する強圧的な振る舞いを厭わない中国に対して国際社会から警戒感が強まったのは無理もない。台湾海峡の緊張も高まった。
2010年には国内総生産(GDP)で日本を抜いて世界第二位の経済大国にのし上がり、「一帯一路」戦略では「債務の罠」が世界中で警戒心を呼び起こした。ニクソンは晩年、側近に「我々はフランケンシュタインを創り出したかも知れないな」と述懐したエピソードはこの欄でも紹介したことがあるが、ニクソンが生きていれば、半世紀後の中国のあまりの「怪物ぶり」に言葉を失うだろう。アジア太平洋地域の覇権をめぐる米中の「新冷戦」も熱い。仲裁裁定から5年目の7月12日、茂木敏充外相が談話で、裁定を拒否する中国の姿勢は「国際社会の基本的価値である法の支配を損なうもの」と批判、南シナ海での一方的な現状変更に「強い反対」を表明した。ブリンケン米国務長官も声明で「中国の主張に国際法上の根拠はない」と断じ、トランプ政権のポンペオ国務長官声明を再確認した。フィリピン軍への武力攻撃に対しては米比相互防衛条約第4条の発動(軍事介入)も再確認して中国を牽制。台湾海峡の緊張からも中国が地域で軍事的挑発をしかねない懸念が米政府に強まっていることを示した。
これに対して中国外務省の趙立堅報道官は記者会見で用意された6項目の長文の反論を読み上げ「仲裁裁定は中国を抑圧するため、米国によって仕組まれた茶番劇。法を無視した裁定は紙くずに過ぎない」と口を極めて米国を非難した上で、南シナ海における平和と安定、中国の主権などを断固として守ると強調した。南シナ海の「盟主」を自任する中国が「域外国」の米国に「手を出すな」と宣言したのである。東シナ海でも尖閣諸島への中国による領海侵犯、接続水域への侵入が7月14日に連続152日の最長記録を更新、尖閣侵略の意図は明白だ。東シナ海と南シナ海の中国による安全保障脅威は「同根の危機」である。日本はQUAD(日米豪印4ヶ国)やG7(主要7ヶ国)など自由・民主主義陣営の結束を固め、国際的支持を広げる積極外交を推進するべきだ。その基礎として日米同盟の軍事作戦も含めた一層の強化、防衛予算で宇宙、サイバー領域を含めた自主防衛能力の大胆な拡充を怠ってはならない。そのために必要なのは強力な政治の指導力である。それが「三つの記念日」が示唆することである。
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