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2021-05-24 07:45
「インド太平洋」に向き合ったG7
鍋嶋 敬三
評論家
ロンドンで2021年5月初旬開かれた先進7ヶ国(G7)外相会合はインド太平洋の安全保障問題に取り組む決意を鮮明にした画期的なものとなった。6月11日-13日の首脳会合(サミット)に反映される。外相コミュニケ(5月5日)では、東シナ海に関して「台湾海峡の平和と安定の重要性」が4月の日米首脳共同声明と同じ文言で取り入れられた。確認できる限りこの15年間で初めてとされる。尖閣諸島を含む東シナ海、南シナ海地域の「ルールに基づく秩序を損なう一方的な行動に強く反対し」、「軍事化、強制、威嚇に深刻な懸念」を表明。「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」に向けた具体的な協力への約束も確認した。言うまでもなく中国への強いけん制である。中国については独自の項目で新疆、チベットの人権侵害、民主派を閉め出す香港の選挙制度の変更に「重大な懸念」を示した。
さらにコミュニケとは別に「外国の脅威からの民主主義の防衛及び共通の価値の擁護」と題する付属文書も発出した。ロシアや中国を念頭に「民主主義の弱体化を試み、自国の権威主義的統治システムや地政学的目的の推進」の追求を非難、民主主義防衛のための協力を互いに約束した。権威主義体制側からの脅威に「共に立ち向かう」との宣言は実に明快である。その背景の第一は「専制主義と闘う」ことを宣言したバイデン米大統領がトランプ政権時代の米欧対立を大きく転換させたことがある。第二に欧州側にもウクライナなどへの軍事圧力を強めるロシアに加え、中国に対する警戒感が強まったことで香港の旧宗主国・英国はもとより、対中融和が強かったドイツも外交路線の修正を余儀なくされた。第三にG7で唯一アジアの国・日本が発祥の「自由で開かれたインド太平洋」構想への理解を浸透させた日本外交の成果がある。
日本の安全保障に緊要な尖閣、台湾、北朝鮮(核の完全廃棄)問題で、日本とは同盟関係にない欧州やカナダが足並みを揃えた点に意義があり、中国への強いメッセージになった。中国外務省報道官が5月6日「中国の主権に対する乱暴な干渉」と非難したのはその反映である。G7の10日後、尖閣諸島への中国の軍事侵攻を想定した日米仏3ヶ国による離島防衛の共同訓練が九州の演習場で実施された。欧州各国の関心も高まった。太平洋に海外領土を持つフランスは早くも2018年にはインド太平洋戦略を発表、2020年にはドイツ、オランダも続いた。英国は2021年3月に「競争時代のグローバル・ブリテン」と題する「統合レビュー」を公表、インド太平洋重視の路線を打ち出した。欧州連合(EU)も同年秋までには戦略をまとめる。英国が5月以降、新鋭のクイーン・エリザベス空母打撃群をインド太平洋に派遣、ドイツ、オランダも艦艇派遣を予定するなど軍事的な動きも活発化している。
日本にとっては、日米安保、日米豪印(QUAD)に加え、日英、日独の外務・防衛閣僚協議(2+2)や共同訓練、北大西洋条約機構(NATO)への日本政府代表部(大使)設置など、グローバルな安全保障の枠組に厚みを加えられる。インド太平洋地域の安全保障情勢についての共通認識に立って、欧州やカナダのアジア戦略に日本の視点を反映できるという外交、安全保障上の意義がある。とは言え、日本には欧州との安全保障・防衛協力について「一貫した戦略が欠けており」「強力な政治的リーダーシップの欠如」が欧州との共同訓練や演習にも影響している(鶴岡路人慶應義塾大学准教授・米外交誌THE DIPLOMAT)と指摘されている。日本はEUや英国との経済連携協定(EPA)を結んで経済関係の緊密化は進んだが、安全保障関係の協力制度は確立できていなかった。日本の危機意識が遠く欧州にまで届いていなかった面もある。同盟国のアメリカにとどまらず自由主義と民主制度の「本家」である欧州を巻き込んだ体制間競争に日本の存在感を示すべく6月のサミット会合に臨む菅義偉首相の指導力発揮を強く望みたい。
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