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2007-09-13 17:38
アメリカ対日協議会(ACJ)が果たした役割
奈須田敬
並木書房取締役会長・月刊「ざっくばらん」編集長
前回投稿(本欄8月23日付け投稿383号拙稿)で取り上げた「アメリカ対日協議会(ACJ)」の概略を筆者が知ったのは、そう古いことではない。それも、「グルー元駐日大使らアメリカ各界の知日派、親日派ともいうべき有識者の対日支援活動を、「逆コース」であると批判し、否定的評価の立場で一貫し、あげくのはてには、ACJを邪悪視した邦訳書を目にしたからである。
まずその著述を紹介しておいた方が、理解されやすいであろう。G・デイビス、J・ロバーツ著、森山尚美訳の『軍隊なき占領――ウォール街が「戦後」を演出した』(新潮社、1996年(平成8年)12月刊)である。この本の宣伝文句、キャッチ・フレーズを、ちょっとしつこい感があるが、内容を知るために“有益”であるから、紹介しておこう。
(1)戦後の民主化政策を葬り、保守勢力を一気に復活させ、今なお日本を操り続ける陰のロビー。水面下にはいつもウォール街が…。
(2)A級戦犯が次々と釈放され、旧官僚群は公職に復帰、財閥の解体も形骸化してゆく1940年代末。
(3)マッカーサーの民主化政策を180度転換させる「逆コース」は、誰が、何故、どんな背景で推進したのか?
(4)戦前から日本の財閥と深い関係をもつアメリカ金融資本の意を受けて、マスコミを総動員しつつ対日政策をねじ曲げたハリー・カーンとは何者か?
(5)ニッポン株式会社の生みの親であり、ロッキード事件にも名を連ねるほど長く影響力を行使し続けた「謎の男」を核とする、戦後秘史の扉が今開けられた!
以上である。おどろおどろしい文句が連ねられているが、「名は体をあらわす」通り、大筋はまちがっていないし、その意味では調査もよく行き届いており、いずれにせよ、ノンフィクションものの代表的なものである。したがって読者の食欲をそそるに十分であろう。ただし、「調査も行き届い」ているが著者の意図・動機等が「丸見え」であり、心底を見透かすことは容易である点を、読者に執告しておかねばらない。
上のキャッチ・フレーズの中に登場するハリー・カーンこそ、グルー、ドゥーマン(グルー駐日大使時代の参事官で日本語が達者、大使側近の1人)とともに、ACJの中心人物である。カーンは『ニューズ・ウィーク』誌外信部長であり、同誌東京支局長のパケンナムとコンビで、日米両国を取りしきっていた。
同書に、有名な白洲次郎が出てくる。「吉田茂が駐英大使のときに親交があったケンブリッジ大学卆の実業家である。グルーおよびドゥーマンとはかなり近い関係にあったと言われる」。要するにACJは日本の元貴族社会の要人たち(樺山伯爵ほか)や財閥(三井、三菱等)の“大番頭”(向井忠晴、加藤武男等)と密接な連携を保ちつつ、日米両国の「階級的利益」を独占していた、と具体的に人名や事実を駆使して、「これでもか、これでもか」と追討ちをかけてくる。
著者の立場、スタンスは次の一節でも明白である。「戦後の日本の経済民主化運動は一丸となって力強いスタートを切った後、すぐれた成果を次々とあげてきたが、この後まもなく、アメリカのマスコミの容赦ない攻撃の的となった」と述べ、著者はアメリカ政府にもイチャモンをつけている。「なぜアメリカ政府はこのような『逆コース』を取ったのであろうか。解放されたばかりのアジア諸国を分裂させ、『極東における平和と安全』という大義名分のもとに戦争に向かわせることになった一連の決定――味方にも敵にも一様に疑惑を生んだ方針転換――をなぜ下したのか。…その結果、今日『ジャパン・インク(日本株式会社)』として知られる怪物を創り出したのは、誰だったのか…」。奇妙なことだが、著者は朝鮮戦争のことに触れていない。
著者の背後でホクソ笑んでいるのがどこの国か、いかなる人物なのか、「正体見たり」の感が深い。ACJ関係者がこの本を、どう読んだか、筆者は知らない。日本の再興と発展に一役買ってくれたACJの存在に脱帽したい。
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