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2020-09-28 17:29
2021年東京五輪に向けルビコン川は渡られたか
松井 啓
初代駐カザフスタン大使
この論壇で私は数回にわたり新型コロナウィルスが収まらない現状では東京五輪は中止されるべきと主張したが、菅新首相は9月25 日の国連総会の一般討論演説で「人類が疫病に打ち勝った証」として東京五輪を開催する決意を表明した。このように日本での開催が国際的に表明された以上、今更反対を唱えることは建設的でないので、実施の発表に至った不透明さと開催実施に注意すべき点について以下に取りまとめた。
1.来年夏の東京五輪開催には新聞などの世論調査によれば国民は相次ぐ自然災害とコロナウィルスで経済的にも精神的にも疲弊しており、6割ほどは五輪開催に後ろ向きである。首相はこれらの民意を十分に汲み取っているのだろうか。この3月17日にIOCは東京を予定通り実施することを目指す方針を発表、安倍前首相も「人類が新型コロナウィルスに打ち勝つ証として完全な形で実施することで一致した」と述べた。菅首相は単にそれを踏襲しただけなのだろうか。
2.新型コロナウィルスの感染は二次感染を含め拡大しており、28日の報道による感染者数と死亡者数は、世界全体では3284万人と99万人(アメリカ707万人と20万人、インド599万人と9万人、ブラジル471万人と14万人等々)と増え続けており、ヨーロッパでは英仏スペイン等で2次感染も報告されている。更に今後アフリカや中近東に感染が拡大する恐れもある。このような状態でのオリンピックの開催が「民族の祭典」、「平和の祭典」となるのだろか。
3.東京五輪は33競技、339種目に拡大し開催費用も史上最大となった。最近になりIOCは簡素化、費用節減の方針を打ち出しているが、施設の維持だけでも数億円の追加費用が必要と報道されている。バッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長は、自己の保身のためか、何としても東京五輪を開催しなければならないのは仕方ないとしても、開催国の日本がそのまま受け入れて良いのだろうか。報道では日本オリンピック委員会(JOC)との協議があったようだが、IOCが強権的に決断したとの印象はぬぐい切れない。この際IOCの組織そのものの簡素化にメスを入れるべきではないだろうか。
4.大量の選手団を派遣する米国や中国の参加が確実であることを確認したのだろうか。IOC収入の73%を占めるテレビ放映権料の多くを米NBCに頼ってとのことだが、どのような折り合いをつけたのだろうか。
5.各国が旅行制限や人的交流に種々制限を加えており、安全な予防ワクチンや治療薬の開発と実用化の見通しは立っていないので、祝賀会や飲み会等に種々予防措置を取り続けなければならない。新たに「Go to Olympic」キャンペーンをやっても、国外からの参加選手や訪日観戦者に訪日して良かったなとの印象を持ち帰ってもらえないだろう。国内競技観戦者やボランチアの健康を確保することも大きな問題である。
6.東京五輪を反人種差別、宗教的主張、民族主義喧伝、ヘイトスピーチの表明等に利用される可能性もぬぐえない。イスラム過激派の爆弾テロの予防にも手を抜けない。
最後に;1940年アジアで初めて東京で開催されることになっていた第12回オリンピック大会は世界戦争の暗雲の中で軍事優先のため返上された。世界情勢の変動に応じ方針を転換するのに遅すぎることはない。無理をして開催してもみじめな結果となれば、反って国際的信頼を下げることとなろう。先の大戦で誰も「止め!」を言い出す勇気がなく無残な敗北に突き進んだことを想起すべきである。
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