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2020-06-15 10:43
G7は存在意義を示せ
鍋嶋 敬三
評論家
中国が香港国家安全法の施行に向けて着々と手を打つ中、中英共同宣言で約束された「一国二制度」を揺るがすものとして、西側諸国からは強い批判を浴びている。香港問題は米国が議長国を務める2020年のG7(先進7ヶ国)首脳会議の大きなテーマになる。自由主義、民主主義、法の支配による世界の実現に責任を共有するG7は今こそ、その存在意義を示すときである。安倍晋三首相は6月10日の国会答弁で、香港問題も「一国二制度を前提にG7で声明を発出していく考え方で日本がリードしていく」と述べ、日本が主導的役割を果たす考えを示した。茂木敏充外相もフランスのルドリアン外相と電話会談し、G7外相会議で「一国二制度」の維持を中国に求める共同声明を出す方針を確認した。
しかし、G7 そのものの在り方に疑問符が付く有様だ。震源地はまたもやトランプ米大統領で、5月30日に大統領専用機中で記者団にG7は「時代遅れ(outdated)」と語りロシア、インド、オーストラリア、韓国を招きG10か G11にしたい意向を見せた。開催時期も6月の予定を9月か、11月の大統領選挙後の可能性も示唆、政権高官は首脳会議では中国への対応が主なテーマになる見通しを示した。これらの発言からトランプ氏は米国と厳しく対立する中国を包囲するため、ロシアやアジア太平洋の国も含めたいようだ。トランプ氏はブラジルのボルソナロ大統領とも電話会談して参加を話し合った。しかし、突如出てきたG7拡大論には見過ごせない問題がある。第一にロシアの対応だ。米ブルムバーグ通信によると、ロシアのペスコフ大統領報道官は「この提案には不明な点が多々ある」と述べて慎重な姿勢を示した。
ロシアはウクライナのクリミア半島を武力併合したため、2014 年にG8から追放された。「中国包囲網」のためのG7拡大なら、対米外交戦略上、中国と組んでいるロシアが乗れるわけがない。他方でトランプ提案に乗って参加すれば、クリミア併合に西側が文句を付ける理由がなくなりロシアに対する制裁解除も期待しうる利点もある。第二にトランプ発言で米欧間の亀裂がまた深まった。イギリス首相官邸のスラック報道官は「加盟問題の決定はG7首脳の全会一致でなければならない。ロシアはクリミア併合によって排除された。我々は再加盟を正当化するだけの(ロシアの)行動の証しを見ていない」と言明した。カナダのトルドー首相に至っては「ロシアは国際的ルールを無視し、これ見よがしに振る舞っている」ので、G7から除外され続けるべきだと明快である。トランプ氏とは特に馬が合うとされる安倍首相はこのくらいはっきりと大統領にものを言ったらどうだろうか。それともロシアのプーチン大統領への遠慮が優先するのか?
ロシアによる他国の領土侵略に対する制裁を反故(ほご)にするようなG7 復帰を日本が暗黙裏にでも認めれば、尖閣諸島の奪取を狙う中国に誤ったメッセージを自ら送ることになることを安倍首相は心に刻みつけておくべきだ。他の国々の参加は、第一回首脳会議以来の創設メンバーであり「アジアで唯一の参加国」としての日本の重みが薄れる。参加国の無原則な拡大は先進民主主義国としての意見集約の妨げになり、存在価値がなくなるであろう。G20を見れば分かる。G7の枠組みを維持すべきである。トランプ大統領はその後もロシアの招待は「常識だ」「プーチン氏が過去に何したかは問題ではない」とウクライナ侵略を問わない姿勢を見せた。トランプ氏の「常識」は先進民主主義国にとっては「非常識」なのだ。45年前の1975年11月、フランスで開かれた第一回首脳会議の「ランブイエ宣言」にこうある。「我々がここに集まるのは、共通の信念と責任を分かち合っているからである。我々は個人の自由と社会の進展に奉仕する開放的かつ民主的な社会の政府に責任を有する」。自由主義、民主主義の価値観の共有を前提にしている。それを表すのが人権の尊重、法の支配という国境を越えた政治、経済、社会制度である。これこそG7の原点なのだ。
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