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2007-08-22 00:11
国益損ねるODA削減
鍋嶋敬三
評論家
経済協力開発機構(OECD)の開発援助委員会(DAC)の発表によると、日本は2006年の政府開発援助(ODA)の実績で英国に抜かれ3位に転落した。1991年から2000年まで米国を抑えて首位に立っていたことを考えると、凋落ぶりが著しい。このままで行くと2010年ごろにはドイツ、フランスにも抜かれて5位に落ちると予想されている。これは財政再建政策のあおりでODA予算がこの10年間に38%も削減され、1980年代の水準に落ち込んだためだ。国連はミレニアム開発目標として2015年までにODA支出の対国民総所得(GNI)比0.7%を掲げているが、日本は0.25%と先進国グループのDAC22カ国中18位と順位を一つ下げた。
政府の「経済財政運営の基本方針(骨太の方針)2006」はODA予算を2007年度から5年間に毎年2-4%削減すると枠をはめた。基礎的財政収支(プライマリーバランス)を2011年に黒字化する目標が設定されたためだ。しかし、財政再建のためとはいえ、これで日本が国際的責任を果たせるだろうか。今年度のODA予算は7293億円で、一般歳出の僅か1.6%にすぎない。6兆円弱の公共事業費(14.8%)、4兆8000億円の防衛費(10.2%)と額では比べものにならないが、日本外交に持つ意味は極めて大きい。日本が経済力に応じて国際社会で発言力を強めてきたのはODAによる貢献の積み重ねがあったからだ。アジアを中心にアフリカ、近年は政治的にも足掛かりのなかった中東地域への援助も増えて存在感を高めようとしている。
ODA削減は二国間だけでなく、国際機関の活動の停滞につながり、国際社会での責任を進んで引き受けようとしない姿勢の表れと世界で受け取られることは間違いない。2005年、小泉純一郎首相が主要国首脳会議(G8)で今後5年間にODA事業量を100億ドル積み増しするとの意向を表明した。日本がG4グループを結成し、国連安全保障理事会の常任理事国入りの多数派工作が熾烈を極めたころだ。首相の発言は、国連加盟国の4分の1以上の勢力を擁するアフリカ諸国の支持取り付けを狙ったものでもあったが、結果は失敗に終わり、首相の「国際的な公約」だけが残った。公約は果たされるのか。翌年、ODA削減を5年間縛る方針が決まった。来年度予算編成方針である2007年の「骨太の方針」でも歳出削減に向けて「基本(骨太)方針2006にのっとり、最大限の削減を行う」と明記した。
来年はG8北海道洞爺湖サミット、日本が15年間力を入れてきたアフリカ開発会議(TICADⅣ)首脳会議を主催する。ミレニアム開発目標に向けた折り返し地点に当たる節目の年で、日本が主導権を発揮する好機である。政府はODAの使命として、途上国の発展や地球規模の課題の解決に取り組む国際的責務を果たすことと並んで、「国益の確保」を新たに掲げている。日本外交の最も重要な手段であるODA予算の長期間一律削減という硬直した方針は、外交戦略としての視点を欠いた近視眼的な発想であり、国益を損なうものにほかならない。
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