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2019-04-06 21:45
北朝鮮の神経を逆なでする動き
古村 治彦
愛知大学国際問題研究所客員研究員
ヴェトナム・ハノイで開催された第2回米朝首脳会談は、ワーキングランチが取り止めになったほか、共同宣言発表も中止になるなど、何の成果も出ないまま終了となりました。会談後、金正恩委員長は不機嫌な態度で会場を後にしました。その後、ヴェトナム政府主催の公式行事には出席しましたが、その他の経済視察などは行いませんでした。前回は、夜のシンガポールに出て、トランプ大統領の支持者である、シェルドン・アデルソンが経営するマリーナベイ・サンズを訪問しましたが、今回はありませんでした。
こうした中、北朝鮮政府の神経を逆なでする出来事がいくつか起きました。まず、2019年2月22日に、スペインの首都マドリードにある北朝鮮大使館に賊が侵入し、館員を一時監禁し、コンピューターなど情報機器が盗まれるという事件が起きました。諜報やスパイといった世界での暗闘の一部なのだろうと思いますが、大使館に賊が侵入するというのはよほどのことです。コンピューターなど情報機器が盗まれたということですが、これでは北朝鮮が在外公館で構築している情報ネットワークや使用している暗号などが流出したということになります。スペインは第二次世界大戦では中立国となり、マドリードでは各国の大使館が情報戦を戦っていた場所です。日本も須磨弥吉郎公使を中心とする東機関(とうきかん)を設立し、アメリカの情報を日本に送っていました。アンヘル・べラスコというスペイン人が日本のスパイとなっていました。マドリードという場所は今でもスパイ戦、諜報戦の第一線なのかもしれません。
さらに、1919年の三一運動から100年の今年3月1日、金正恩委員長の兄で、金委員長の移行で殺害されたとされる金正男(故金正日国防委員長の長男)の息子である金漢率(キム・ハンソル)氏を保護していると主張しているグループ「千里馬民間防衛(CCD)」が名前を「自由朝鮮」に変え、朝鮮臨時政府の設立を宣言しました。金漢率氏が首班にはなっていないようですが、外国に北朝鮮の亡命政府というか、臨時政府を設立すると宣言しました。2回目の米朝首脳会談の直後のタイミングというのが気になるところです。この自由朝鮮というグループの実態ははっきりしていません。しかし、故金日成国家主席の曾孫、故金正日国防委員長の孫であり、長男の長男である金漢率を擁しているということは重要なことです。血筋で見れば、金漢率氏の方が故金日成主席に近いということになります。
この自由朝鮮の動きの裏に、アメリカ、特にアメリカのネオコン派がいるとするならば、この動きは北朝鮮政府にとっては神経を逆なでするものであり、金正恩委員長が外出を控えるようになったというのも、暗殺の危険を避けるためということになるのだろうと思います。米朝首脳会談の不調と朝鮮臨時政府の発足ということを結び付けて考えると、この先、米朝交渉が決裂せずに、だらだらと続いていくことは重要である、成果を急いで出そうとすると交渉が決裂し、最悪の場合にはアメリカによる北朝鮮攻撃という可能性が息を吹き返してくるということになります。
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