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2018-12-08 17:16
北方領土問題について国民的合意を
松井 啓
時事評論家、元大使
冷戦時代には米ソ大国の狭間にあった日本外交は同盟国である米国に制約された面もあり、北方領土の帰属問題でも、4島即時一括返還、均等面積で2分、3島返還、2島返還など種々意見が出てゴールポストが動き、ロシア側に本格的交渉継続の意欲を失わせた。最近の両国間の動きをフォローし、対処ぶりを検討してみたい。プーチン大統領となってから「ハジメ」のサインで交渉が始まり、安倍政権となってから彼の「ヒキワケ」の発言に動かされ、安倍首相は2016年12月のプーチン大統領との長門の大谷山荘会談で(16回目)、その交渉を本格化する決意を固め、極東開発及び4島(双方の法的立場を損なわない特別な枠組み)に対する経済協力を進めることとなったが、大統領はその実績には不満である。
本年9月東方経済フォーラムの公開の席上でプーチン大統領は習近平主席を挟んで安倍首相に対し、たった今思いつたんだと前置きの上、「何らの前提条件なしに平和条約締結交渉を始める」ことを提案した。11月14日のAPEC会議の際での両首脳会談では(24回目)、1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和交渉を活性化(注:露語では加速化ではない)させることが合意された。これにより60年以上紆余曲折した交渉は振出しに戻った。12月1日ブエノスアイレスにおけるG20会議の際の両首脳会談において、河野およびラブロフ両外相を交渉責任者とした新たな枠組みで条約協議を開始することになり、来年1月の安倍首相訪ロ前に両外相会談を開くことで調整し、来年6月のG20大阪会議にプーチン大統領が訪日の際には両首脳間で平和条約の大筋に合意したい模様である
1956年の日ソ共同宣言には、ソ連は「歯舞諸島及び色丹島を日本に引渡す(注:露語では返還ではない)ことに同意する。ただし、これらの諸島は両国間の平和条約が締結された後に現実に引渡されるものとする」記されており、国後島および択捉島については何らの言及もない。戦後73年間平和条約がない「異常な状態」に終止符を打つためには、次のような問題が指摘されている。
(1)北方領土は腐るものではない。中途半端な妥協で百年の禍根を残すべきではない。
(2)米中露という3大国に囲まれている日本は、3国間のバランスを巧妙に図る要がある。安倍首相がプーチン大統領及びトランプ大統領と良好な関係にあるうちに日露間の平和条約を妥結し、ロシアの経済発展を支援し膨張する中国に対する立場を強化する要がある。
(3)北方4島からは日本人は放擲され旧島民の平均年齢は83歳となっており移住したい人は僅少であろうから、自由に墓参できるようにすれば十分であろう。
(4)北方領土の経済協力のための「双方の立場を損なわない特別な枠組み」は絵に描いた餅で実現不可能でああろう。
(5)韓国、中国その他第三国が北方領土で事業を始めた場合の対処方法如何。
(6)北方領土上のロシア人及び基地の取り扱い如何(沖縄の例は参考にならない)。
(7)ロシアが自己の「内海」であるオホーツク海の対米・対中安全保障上重要である国後島及び択捉島(空海軍事基地あり)を手放すことはあり得ない。中国の言う「氷のシルクロード」(北極海航路)が今後更に重要となってくるので、日本への「領土割譲」は低迷している大統領の支持率の更なる低下につながる。
(8)大統領は膨張する中国に対抗すべく日本の技術や経済協力により経済活性化を図り(1970年代日ソは石油や森林、港湾建設等シベリア、極東開発で協力した実績あり)、それが彼の支持率向上にも資することを期待している(クリミア半島併合直後80%以上あった支持率は石油価格の下落による経済低迷、年金の引き下げ等により70%以下となっている)。
今後、冷静に長期的大局的な観点から十分議論を深め、覆ることのない国民的合意形成に努める必要があろう。
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