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2018-09-25 11:04
秩序転換期に「強靱な日本」目指せ
鍋嶋 敬三
評論家
自民党総裁選で3選を果たした安倍晋三首相は9年間の最長政権も可能になった。安倍氏がなすべきことは「ポスト戦後」の国際秩序の転換期にあって、内外の危機を乗り越えられる強靱な日本を作り上げることである。「戦後体制」に寄りかかってきた日本の政治、経済、社会システムは随所に矛盾とほころびが露呈している。違憲判決が相次ぐ選挙制度、崩壊寸前の医療、年金制度や財政危機などは政治の怠慢で抜本的改革が放置されてきた「時限爆弾」である。国民の安全、安心は「地獄」に向かって転がり落ちつつある。問題は日本の指導層にこのような危機認識がどれだけあるかである。人口減少、老齢化、科学技術力の低下による国際競争力の落ち込みは著しい。安倍氏が総裁選挙の主題に掲げた憲法改正は避けて通れない最大の課題だ。自衛隊の存在を書き込む憲法改正の必要性は十分あるが、国民の理解が相当程度に浸透しないまま国民投票を実施すれば、国の分裂と混乱を招くことは避けられない。英国の欧州連合(EU)離脱の国民投票がもたらした混乱と西欧世界の影響力低下を見れば明白である。
日本の安全は国際関係の安定と防衛・安全保障体制の強化にかかる。トランプ米政権による「米国第一主義」は同盟国を含めた自由・民主主義陣営に混乱と対立をもたらした。これは米国主導の戦後国際秩序を覆そうとする中国やロシアにとって絶好の機会である。日本は米国主導の二国間管理貿易交渉に引きずり込まれないようにしなければならない。一方で、環太平洋連携協定(TPP)や日EU協定のように多国間協定の輪を広げて自由貿易圏の重層的拡大に努力すべきだ。それが中国やロシアに対する戦略的資源にもなり、「トランプ主義」へのけん制効果もある。自由貿易体制維持に日本が主導権を発揮すべき時である。
中国やロシアに対する外交はますます厳しさを増すだろう。9月10日の本欄で「疑問符が付く安倍対露外交」を論じたばかりだが、ロシアのプーチン大統領は12日に開いた「東方経済フォーラム」で安倍首相、習近平中国主席の面前で北方領土を棚上げして「年内に平和条約を結ぶ」提案を突如行った。2001年のイルクーツク合意で 東京宣言に基づき「北方4島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」交渉の促進で自ら合意したにもかかわらずである。そもそも戦争の後始末である平和条約を結べば、領土問題は存在しなくなる。プーチン発言は安倍首相に対する侮辱である。外交の世界では、公に反論しなければ相手の主張を認めたと受け取られるのは常識である。尖閣諸島の奪取を狙う習近平主席は、隣席でどのような思いで聞いただろうか。その場で反論しなかった安倍氏は帰国後、「4島の帰属問題を解決して平和条約という基本方針に変わりはない」と述べたが、テレビで世界に放映された後ではまさに「後の祭り」である。プーチン氏に北方領土を返す意思が毛頭ないことはこの発言でも明らかである。
今年は日中平和友好条約締結40周年で安倍訪中も予定される。しかし「日中友好」がいかにもろいものかは反日暴動、尖閣諸島への継続的な領海侵犯、経済制裁など条約の趣旨に反する行動の連続で分かる。最近は米中貿易戦争の影響で「対日関係の改善」ぶりを見せているが、尖閣への主権侵害を止めない限り、その姿勢は「見せかけ」に映るだけだ。安倍首相は北朝鮮に対する制裁措置の完全実施、南シナ海での軍事力拡張の中止などを含めて中国に対して毅然とした態度を示すべきである。防衛、安全保障体制の強化は喫緊の課題である。尖閣諸島の奪取をもくろむ中国、北方領土で軍備拡張のロシア、さらには北朝鮮の核・ミサイル保有と日本は直接的な軍事的脅威に直面している。軍事力強化には長期間の投資が必要である。年末の防衛計画大綱の策定では宇宙、サイバー空間を含めた大胆な構想が求められる。日本の積極的な抑止力強化が国際関係の安定に寄与する。トランプ氏ならこう言うだろう。「シンゾウをよく見てみよう!」
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