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2018-04-16 12:45
歴史的転機に立つ「非核化」
鍋嶋 敬三
評論家
安倍晋三首相が4月17、18日、米国のドナルド・トランプ大統領と首脳会談を開く。貿易不均衡、経済問題もさることながら、最大のテーマは北朝鮮の「非核化」である。金正恩朝鮮労働党委員長が元旦の「新年の辞」で米本土が核攻撃の圏内にあるという「国家核戦力の完成」宣言を皮切りに大外交戦がスタートを切った。北朝鮮の平昌五輪参加を契機に3月8日にトランプ大統領が米朝首脳会談の開催に同意。金委員長が急遽訪中、3月26日に習近平国家主席との初会談で中朝関係を正常化して、中国を後ろ盾とする対米交渉の体制を整えた。4月27日の南北首脳会談を経て金氏のロシア訪問も日程に上るだろう。朝鮮半島を巡る大国関係がこの4ヶ月間に歴史的な展開を見せているのだ。安倍首相は5月に日中韓、日ロ首脳会談を想定しているが、拉致問題を含む懸案処理のため日朝首脳会談も視野に入れなければならない。
「非核化」と言っても、北朝鮮と米国では目指すものが全く異なる。北の立場は「朝鮮半島の非核化」であり、中朝首脳会談で示した「段階的で同時並行的な措置を取れば解決する」というものだ。その意味するところは、北朝鮮に対する制裁の解除、在韓米軍の撤退、米韓軍事同盟の解消、朝鮮休戦協定の米朝平和条約への移行などであり、韓国や日本に提供する米国の核の傘の撤去である。他方、米国の立場は非核化の対象は北朝鮮であり、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」で、リビア方式の核兵器や製造施設の完全な解体を意味する。北朝鮮の主張は従来と変わらずいくつもの条件を重ねた時間稼ぎに過ぎないことは過去四半世紀に及ぶ交渉の末、約束が反故にされた結果、核兵器を保有、米国に届くことが可能な大陸間弾道弾(ICBM)の開発を許した歴史が示すとおりである。
国連安全保障理事会をはじめ各国独自の制裁に締め付けられた結果、北朝鮮は起死回生の外交戦に打って出た。五輪参加を契機に韓国の文在寅・左翼政権を抱き込み、日米との離間策を強める一方、険悪な仲だった中国に頭を下げて支持を取り付けた。ロシアとも組んで対米共同戦線を構築する。あわよくば韓国も取り込み、国際包囲網を突破するもくろみだろう。現在の朝鮮半島を巡る国際関係で重要なのは中国の存在であり米中関係である。米国は巨額の対中貿易赤字は不公正な貿易によるものだとして、500億ドルに相当する輸入品に25%の関税を上乗せする制裁を発動、中国もこれに対抗する報復関税を発表した。米中関係で最も敏感な問題である「台湾」を巡っても対立が深まってきた。トランプ大統領は3月16日に閣僚を含む政府高官の相互訪問を認める台湾旅行法に署名、成立させた。4月はじめには台湾の蔡英文政権による潜水艦の自主建造計画に米企業の参画を許可した。トランプ政権による安全保障、政治面における台湾関与の相次ぐ強化策に対して中国は当然のごとく猛反発している。
台湾問題は中国共産党政権発足以来の「核心」的課題であり、3月の憲法改正で「終身体制」を固めた習主席にとって失敗は許されない。米中関係の悪化はアジアの新冷戦に直結する。中国の軍事戦略に詳しいL.ゴールドスタイン米海軍大学教授は「中国は北朝鮮の核兵器を新冷戦で役に立つ戦略的なテコになると見なしている」と指摘した。中国にとって北の核は、自らの手を汚さずに済む対米戦略上の利用価値大な存在なのである。歴史的に朝鮮半島はロシア、中国、日本、米国など大国の勢力圏争いの場であり日清、日露戦争に発展した。日露戦争末期の1905年、桂・タフト協定で米国が大韓帝国に対する日本の支配権を、日本はフィリピンにおける米国の支配権を相互に確認した。20世紀半ばの朝鮮戦争に至るまで近現代史の100年間、朝鮮半島を巡る大国間の覇権争いは止むことがなかった。今、新たな「非核化」を巡る駆け引きが始まった朝鮮半島は次の100年の歴史の扉を開くことができるのか、その岐路に立っている。
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