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2017-12-21 17:07
互恵主義に自縛の米国家安全保障戦略
鍋嶋 敬三
評論家
トランプ米政権が12月18日に発表した初の「国家安全保障戦略」(以下「戦略」)は、「力による平和」と「経済再活性化による米国の繁栄」が主テーマになった。米国の「ライバル」としての中国、ロシアを「現状変更勢力」ととらえ、安全保障戦略の主要な対象に据えた。両国は第二次大戦後に米国が主導してきた世界の秩序を書き換えようとしており、ベトナム戦争以降、経済競争力を失ってきた米国の国際的な影響力低下を好機として米国の前に立ちはだかってきた。トランプ大統領は「戦略」発表にあたっての記者会見で「アメリカの影響、価値や富に挑戦するライバル勢力の中露と向き合っている」と述べる一方、協力関係は「米国の利益を守るやり方で」構築する意向を示した。アジアや中東で影響力を強めている中国やロシアを無視できない現状認識がある。
トランプ大統領が最も力を込めたのが「戦略」の四つの柱の一つである「米国の繁栄推進」である。大統領は「経済安全保障が国家安全保障になったことを米国の戦略として認めたのはこれが初めてだ」と、その意義を強調した。「経済的活力、成長、繁栄が海外での米国の力と影響力に絶対に必要なのだ」と言う。それは当然のこととしても、トランプ氏の力点は「安全のために繁栄をあきらめた国は二つとも失う」という点にあった。同氏は脅威に対抗するためには同盟関係の強化を強調したが、そのためには同盟国が「共通の安全のための公平な責任分担」を担うよう呼び掛けることも忘れてはいない。「米国は協力と互恵主義に基づいた強力な同盟関係を求める」と、トランプ流の基本原則を明示した。
インド太平洋地域では、中国の強引な海洋進出、北朝鮮の核・ミサイルによる安全保障の脅威が強まっている。「戦略」では「重要な同盟国・日本の強いリーダーシップを歓迎し、支持する」と明記。安倍晋三政権による積極的なインド太平洋外交、ミサイル防衛日米協力、防衛力増強の努力などの指導的な役割を高く評価したことが目を引く。これは大統領選挙での勝利直後からの安倍・トランプ両首脳の直接会談や頻繁な電話会談を通じた信頼関係が反映していることは間違いない。インドについて「強力な戦略的防衛パートナー」としての出現を歓迎した上で、米国が日本、オーストラリア、インドによる4カ国協力を進める構想も示した。「戦略」の「インド太平洋」項目や4カ国協力の考え方は安倍外交戦略をトランプ政権も共有したということであろう。
「米国第一主義」を掲げたトランプ政権だが、「戦略」では基本的に多国間協力機関の意義も認めている。米国の利益に影響するルール作りにかかる多国間取り決めを米国が主導しなければならないとした。ただし、そのような関与は米国の主権を守り米国の利益と価値を推進する、という前提の上での話である。世界貿易機関(WTO)の2年に一度の閣僚会議が12月、ブエノスアイレスで開かれたが、米国の反対で閣僚宣言が出せないまま閉幕した。WTOに対して「戦略」では「不公正な貿易慣行を裁くように、より効果的な機関にするよう圧力をかける」と明記した。広い意味での軍事的な脅威に対する同盟国との協力関係では進展を見せるものの、「米国第一主義」の旗の下、環太平洋連携協定(TPP)や気候変動のパリ協定(COP23)から離脱し、互恵主義の主張に自ら縛られたトランプ政権は未だに国際社会での指導力回復の構図と具体的な工程表を描けてはいない。
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