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2017-08-07 22:19
朝鮮半島は日本にとりいかにあるべきか
松井 啓
時事評論家、元大使
日本にとり朝鮮半島の安定は地政学上死活的に重要である。中国、ロシアがこの半島を実効支配することを避けるため、日本は日清戦争、日露戦争、朝鮮併合、そして敗戦後の朝鮮戦争等幾多の試練を経てきた。米ソ冷戦構造時代の負の遺産は、ヨーロッパでは東西ドイツが統一され(西が東を統合)、アジアでは南北に分裂していたベトナム等のインドシナ諸国も安定化したので、朝鮮半島のみとなっている(依然として休戦状態にあり「国連軍」が存在する)。北朝鮮の三代目の独裁者金正恩委員長は、北の独立は核兵器保有によってのみ維持できるとの信念のもと、特に経済的にも軍事的にも圧倒的な大国であるアメリカに対する自己の立場を強化しおくべく、核弾頭及びその運搬手段であるミサイルの開発に邁進している。金委員長は、戦争を始めれば核兵器を使用してもアメリカを相手に勝ち目はないことは十分に認識しているが、他方アメリカが多大の犠牲を払ってまで戦争を始めることはない、と腹をくくっている。
中国は北朝鮮を外交カードとして保持しておきたく、米露の影響下に入るのを阻止し、習近平主席としては秋の党大会を控えこの地域に波風を立てたくないであろう。ロシアも北朝鮮とは国境を接しており、自己の影響力強化を虎視眈々と狙っている。同国から北朝鮮への石油輸出は昨年同期比で2倍になっているとの報道もある。アメリカはオバマ政権時代に「世界の警察官」を止めると表明し、トランプ大統領も「アメリカ第一主義」を打ち出しているので、米本土から1万キロも離れた朝鮮半島で多数のアメリカ兵や市民の生命を犠牲にする積極的利益は見いだせないだろう。この点、ケネディ大統領時代に起こったキューバ危機とは次元が異なる。北朝鮮の暴発により危機的状況が起こった場合に米国が同盟国日本を援護する保証は、必ずしもないと見ざるを得ない。
チュニジアから始まった「アラブの春」がエジプト、リビヤ、イラク、シリア等に安定をもたらさなかったのは、既存政権崩壊後の体制の在り方につき主要関係国間であらかじめ合意ができていなかったためである。対北朝鮮の軍事演習や斬首作戦等をちらつかせて金委員長を追い詰めても、核兵器開発を止めるどころかかえって加速させことになっているのは、最近のミサイルの連発で明らかである。国連の制裁決議にしても、中露は対話姿勢を崩さず、抜け穴を作るのは北朝鮮のお家芸である。逆に、現北朝鮮体制の崩壊により、大量の難民が国境を越え中国、韓国、更には日本に押し寄せてくる場合の備えは、少なくとも日本では全くできていない。
結局のところ2007年3月の第6回以降中断されている6者(米韓北朝鮮中露日)協議に立ち戻るしかないだろう。長期的に見れば同一民族である韓国と北朝鮮が合併するのは自然であり、いきなりは無理であろうから、当初は南北による連邦制とし、核兵器は凍結、次に廃止し、ゆくゆくは統一国家となり、朝鮮半島を大国の支配下にない緩衝地帯とする方向で、中国とロシア、更にアメリカがこれを保障するような合意の形成に向け、日本が陰ながら動くのが、この地域の長期的安定と日本の国益につながることとなろう。
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