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2007-04-30 19:20
集団的自衛権に関する有識者懇談会に望む
角田勝彦
団体役員・元大使
国民投票法案の今国会成立が確実となるなか、安倍首相は、任期中(最長:3年X2期)に憲法改正を目指す方針に則り、夏の参院選では憲法改正を争点に掲げるとしていたが、4月25日には、集団的自衛権行使の事例研究を進める有識者懇談会設置を発表した。直後に訪米した同首相は、ブッシュ大統領に対し、安倍内閣の使命として(憲法を頂点とする)戦後レジームからの脱却を目指す考えを表明し、その一環として、時代に適合した法的基盤を再構築するための有識者懇談会を発足させたことを説明したとされる。
この有識者懇談会は、5月18日に初会合を開き、(1)米国を狙った第三国の弾道ミサイルを、ミサイル防衛システム(MD)で迎撃、(2)公海上で自衛艦と並走中の米艦船が攻撃された場合の反撃、(3)多国籍軍への後方支援、(4)国連平和維持活動(PKO)で任務遂行への妨害を排除するための武器使用、の四類型に限定して検討を進め、秋には結論を出す予定といわれる。他方、自民党の集団的自衛権に関する特命委員会(委員長・中川昭一政調会長)は4月27日初会合を開き、有識者懇談会が結論を出す秋をめどに、政府への提言をまとめることを決めた由である。
すなわち、安倍首相は、日米同盟強化の観点から、憲法改正による抜本的問題解決を目指す一方、この有識者懇談会が現行憲法下でも集団的自衛権の少なくとも限定的な行使を容認する結論(法制局などの違憲解釈見直し)を出すことを期待していると見られる。議論は大いにけっこうである。私は夏の参院選で憲法改正に関する各党、とくに民主党の見解明示を期待している。有識者懇談会の結論が間に合わないのが残念なくらいである。
ちなみに、4月6日付読売新聞は、本年3月に実施された次のような全国世論調査の結果を掲載している。憲法を「改正する方がよい」とする者は46%で15年連続して多数を占めたが、昨年調査より9ポイント減り97年調査以来の半数割れ。第9条に絞ると「改正する必要がない」とする者が第1項は80.3%、第2項は54.1%である。集団的自衛権については「これまで通り使えなくてよい」とする者が50.0%、「憲法を改正して使えるようにする」が20.8%、「憲法の解釈を変更して使えるようにする」が20.6%である。
有識者懇談会の会合が行われていない現在、討議の方向に予見を持つことは妥当でない。発表された懇談会メンバーに対し失礼でもあろう。しかしこの「百花斉放」欄でも数回にわたり「解釈改憲は無理」との主張を行ってきた私としては、政治的議論は自民党などに委ね、法的議論を尽くすことを期待したい。四類型を見ても、違憲とされる集団的自衛権行使を引っ張り出さなくとも、個別的自衛権の行使などで処理できる部分が多々あるように思われる。たとえば万が一不穏な事態のなかで北朝鮮の弾道ミサイル(最近も新型の中距離弾道ミサイルを誇示している)が発射されるとき「米国向き」「日本向き」と名札がついている訳でもあるまい。軍事技術的に可能なら、座して死を待つことなく発射直後のブースト段階であっても処理するのに遠慮は不要だろう。
そもそも現行憲法下で、ここまで拡大されてきた個別的自衛権の行使と(集団的自衛権の)「限定的行使」を使い分ける実益があるのだろうか。また「限定的」とは「類型」限定のみに限定されるのだろうか。日米同盟強化のためには、イラクへの航空自衛隊派遣を定めたイラク復興支援特別措置法の2年延長改正、軍事情報保全協定(イージス艦の例もある)、在日米軍再編、ミサイル防衛(MD)システム構築などの懸案の実質的推進が、より望まれているのである。
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