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2017-05-09 17:56
安倍総理の憲法改正発言について
船田 元
衆議院議員(自由民主党)
5月3日の憲法記念日には、憲法施行70年という大きな節目を迎えた。改憲、護憲のそれぞれの立場から、例年の如く様々な集会が開かれたが、いつもと違っていたのは、ある団体が主催するイベントに安倍総理が改憲に踏み込んだビデオメッセージを寄せたことである。その内容は、まず第9条の改正を正面から捉えたことだ。戦争放棄を謳った第1項と戦力不保持を謳った第2項をそのまま残し、新たに第3項を設けて、自衛隊の存在を明記するというもの。平成24年の自民党の新憲法草案にはなかった改憲内容である。もう一つは、第26条の教育を受ける権利や義務教育の無償化をさらに踏み込み、経済的理由の如何を問わず教育を無償化すること、取り分け高等教育の無償化を目指して憲法を改正することを提案している。
第9条の改正については、これまで公明党が主張してきた「加憲」、すなわち第3項を付け加えることと合致しており、公明党に配慮したものとも受け止められる。実際、公明党幹部は今回の提案に対して、一定の評価を示している。教育の無償化については、かねてより日本維新の会が唱えて来た改憲項目であり、これも維新に配慮したものだろうか。自民党の憲法改正推進本部や衆議院憲法審査会の与党幹部の間では、従来から国論を二分しかねない9条改正は後回しし、まずは野党第一党の民進党まで合意可能と思われる、緊急事態における議員任期の特例や、教育の無償化を優先項目としてきており、今回の安倍総理の発言とはズレが生じている。何らかの軌道修正が迫られるかも知れない。しかし内容以上に厳しいのは、この時期に総理が踏み込んだ改憲発言をしたこと自体だ。内閣が改憲原案を国会に提言できるかどうか、学説は分かれるところだが、深く改憲議論に関わってきた我々としては、第一義的には憲法制定権力を有する国民を代表する国会が発議すべきものというのが常識だ。
安倍総理もこのことはご承知のはずだが、改憲勢力が衆参両院で3分の2を獲得したにも拘らず、国会における改憲論議がなかなか進まないことに、焦りを覚えておられたのではないかと推察する。現場を預かる立場として申し訳ない思いもあるが、行政の長たる総理大臣には、もう少し慎重であっていただきたかったというのが本音である。また「安倍政権の元では改憲はすべきでない」と、従来から態度を硬くしてきた民進党が、最近ようやく柔軟さを見せ始めていた矢先に、今回の総理発言が舞い降りてきてしまった。民進党がまた逆戻りして、頑なになる可能性は十分に考えられ、憲法審査会の現場では、困難な交渉を余儀なくされるのではないか。総理発言のもう一つのポイントは、2020年には改正憲法を施行させたいという点だ。なかなか進まない改憲論議に一石を投じ、現在の膠着した事態を打開したいという強い意思の表れだと思われる。確かに議院内閣制の元では、国会と内閣は一定の連携も容認されるが、この発言は国会での議論の行く末や期間を、行政の長が規定することにつながりかねず、取り分け野党の反発を招くことは必至と思われる。
憲法改正の第1ステージは、衆参両院における憲法改正原案の議決と、国民に向けての発議だが、第2ステージの国民投票は、国民の制憲権を発動させるという、民主主義の最も大事な手続きである。従って国会の3分の2の勢力だけでどんどん進められるものではなく、少なくとも野党第一党の理解を得ながら手続きを進めなければならないのである。さらには昨今の他国での国民投票が、英国のEU離脱やイタリアの憲法改正のように、時の政権側の意向に反する結果を招いていることは、ご承知の通りである。第1回目の憲法改正が国民投票において否決されようものなら、国会はもとより内閣も政治的ダメージを受け、改憲論議が止まってしまうだろう。だからこそ国会内での改憲論議と手続きは慎重にも慎重であるべきなのだ。願わくは今回の総理発言が、改憲内容はまた別として、良い意味で与野党に刺激を与え、議論が前進して行って欲しい。もちろん直接議論に関わっている我々が、このピンチをチャンスに変える努力をすべきことは当然だが
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