ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2007-04-24 09:30
「中国海軍が空母を保有する日」を考えよう
秋元一峰
海洋問題研究者・元海将補
本年3月、韓国のネット新聞が「中国は2010年に48,000トンの在来型空母を、また2020年に93,000トンの原子力空母を建造する」と記した中国共産党の内部文書を入手したと伝えた。このニュースの信憑性は分からないが、中国の空母保有については様々な憶測がある。東・南シナ海の制海のために中国はいずれ空母を保有するといった意見があれば、中国は空母を旧世代の兵器と見なしており、建造はないとする見方もある。
実は、中国国内には三隻の空母が在る。一つは、ロシアから購入した旧ソ連海軍のスキージャンプ甲板方式の空母「ワリヤーク」で、機関を取り外された状態で大連港に係留されている。他の二つは、やはり旧ソ連海軍の垂直短距離機(VSTOL)発着艦の「キエフ」と「ミンスク」である。「ミンスク」は観光施設に、「キエフ」は娯楽施設になっている。この他、中国はオーストラリアからカタパルト方式の空母「メルボルン」を購入し、飛行甲板を離着陸訓練に使用していたことがある。つまり、中国はVSTOL、スキージャンプ、カタパルトという現代の空母の技術をすべて入手していることになる。
今年に入ってから、中国国内で空母建造についての発言が相次いでいる。中国国防科学技術工業委員会の孫来燕副主任が、「中国は空母を建造する技術を持つに至っており、空母建造を真剣に考えるときである」と述べ、また、中国系香港紙・文匯報が、「中国人民解放軍の中将が2010年までに空母を建造できる」と語ったと伝え、この報道に関連して、中国外務省の秦剛・副報道局長が記者会見で、「中国の関係部門は(空母建造を)真剣に検討するだろう」と述べている。アメリカ国防総省の『中国の軍事力(2006年)』は、「中国は空母建造を想定して旧ソ連製空母3隻を購入し、空母艦載機としてロシアからSu-33とSu-27を購入する計画がある」旨を記載している。このような発言や論調が続く中で、人民解放軍機関紙・中国国防報に、「日米などによる中国海軍空母保有脅威論は中国の海洋進出を阻止する企みである」との論文が掲載された。
中国を説明するに、天・地・人という三層構造で喩える向きがある。それは、「中国は、天=中華世界、地=統治主体、人=統治下にある民衆、から成り、この構造は歴代帝国から中華人民共和国まで変わらず続いている。中国とは国家的には統治の中心を意味し、中心から権力の及ぶ範囲が国境線であり、国際的には世界の中心を意味し、中華尊厳の及ぶ範囲が中華世界である。民衆は、統治主体が代わっても変わらぬ国民である」との見方だ。これが的を射たものであるとすると、中国は領域主権国家や国民国家の定義に合わない国ということになる。拡大する中国の海洋への進出が進んでいる。中華人民共和国は建国以来、核保有、先富による経済発展、人工衛星等々、目標を確実に達成してきている。空母保有が国家目標としてあるとすると、やがて必ずそれも達成するだろう。
旧ソ連海軍は、米海軍と非対称的な海軍を建設し、それが結果的に米海軍による両洋の制海を許した。中国は、明らかに米海軍と対称的な海軍力を整備しつつある。そこに空母を加わるとどうなるか。米海軍にとっては日本海軍以来の“ガチンコ勝負”のできる海軍力の登場となるだろう。中華世界と西欧文明世界は共存できるのか?そして、中国が空母を保有する日について、日本はもっと関心を持つべきではないか。
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
一覧へ戻る
総論稿数:5601本
公益財団法人
日本国際フォーラム