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2017-04-17 06:56
米中ロのシーソーゲームと日本
松井 啓
時事評論家、元大使
良くも悪くもアメリカの民主主義制度により選出されたトランプ氏は、想定外の事態が起こらない限り、今後4年間は大統領としての任にあたることとなった。同氏の選挙キャンペーン中の「アメリカ第一主義」をはじめとするスピーチやツイッターは物議をかもしたが、一代で不動産王として財を成し「金目」からの取引感覚に優れていても、短期的視野に基づいたアメリカ国益最優先では、政治・経済・軍事が複雑に絡み合った今日の国際関係の中では、自国の国益すら維持できない。そのような事態を新大統領は学習しつつあり、他方、米議会と裁判所は大統領の独断専行にブレーキをかけ、軌道修正をさせている。
「アメリカによる平和(Pax Americana)」は21世紀に入り終焉し、オバマ前大統領は「世界の警察官」としての米国の役割放棄を宣言したが、米国はいまだに世界第一の経済・軍事大国である。他方、中国はGDPで世界第2位の経済大国となり、習近平主席を権力基盤の「核」とする中華大帝国建設を目指し、軍事力、特に海軍力を増強して、海洋権益の拡大に邁進している。また、ロシアのプーチン大統領はソ連崩壊による失地を回復すべく、西側へ着々とチェスの駒を進め、また中東での影響力拡大(南下政策)を図っている。一方ヨーロッパでは移民の大量流入を一因として、自国優先主義が台頭しつつあり、長年かかって構築してきたEUも、英国離脱に見られるように、結束が乱れてきており、プーチン大統領に有利な状況となってきている。
このような国際関係流動化の状況下では、アメリカが拱手扼腕している場合ではないことを認識したトランプ大統領は、4月6日習主席との晩餐会の最中にシリアを空爆し、中露間に楔を打ち込み、北朝鮮の核・ミサイル開発にも毅然とした姿勢を見せている。これにより、決断と実行力ある強い大統領との印象を内外に与えたが、中東とアジアの二正面作戦を取らざるを得なくなっている。国際政治へのアメリカの回帰である。4月16日からのペンス副大統領のアジア太平洋諸国歴訪に見られるように、アメリカがこの地域に本腰を入れてきたのは、日本にとり好ましいが、金正恩北朝鮮労働党委員長の究極目標が金日成主席の遺志を継いだ「北による朝鮮半島統一」であるならば、米国威嚇のための核・ミサイル開発に益々固執するであろう。相手の腹の読み違えによる第二次朝鮮戦争の勃発は是非とも避けなければならないので、米中の緊密な連携による対北朝鮮包囲網(特に経済制裁)を着実に強化する必要がある。
このように日本は北朝鮮という至近の脅威を抱え、米中露三大強国間の微妙なシーソーゲームのなかで、アメリカと協力してアジア太平洋地域の平和と安定に積極的なイニシアティブをとれる枢要な地政学的位置にある。安倍首相が他国に先駆けて就任前のトランプ氏と会い、更に正式な日米首脳会談を行ったのは、日米関係の緊密さを広く印象付けた。他方、首相は昨年来プーチン露大統領とも頻繁に接触し、北方領土問題を解決して平和条約を締結すべく交渉を進めている。日本は現在国連安全保障理事会の非常任理事国であり、安倍首相は本年中にG7の最古参メンバーとなる可能性もあり、国際社会での日本の存在感は高まっている。戦後72年を経て日本はようやくアメリカと対等な同盟関係を構築して、「普通の独立主権国家」となる機会を得ている。今こそ日本は、現実的な安全保障体制を基盤とした「国のあり方」につき真剣な論議を重ね、国民的な合意を形成することが喫緊の課題である。
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