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2016-09-13 05:52
米韓に対北軍事強硬論が台頭
杉浦 正章
政治評論家
金正恩はもう戻れないルビコンを渡った。5回目の核実験が意味するものは、核弾頭搭載ミサイル製造のめどが立ったことである。レッドラインを超えたのだ。今後1年以内に実戦配備となる可能性が高い。従って、焦点はもう無意味な国連制裁にはない。米韓が軍事行動に出て核配備を食い止めるかどうかにある。米国内では「サージカル・ストライク(外科手術的攻撃)で、ピンポイントに金正恩と核製造施設を攻撃し、指揮系統を崩壊させるべき」との論議が再び高まりつつある。韓国では新聞が社説で核武装論を堂々と主張するようになった。東アジアにおける核ドミノ現象の兆候である。金正恩はさらなる核実験を準備しており、米軍はB1爆撃機を韓国に派遣して軍事圧力を強める。金正恩がルビコンを渡ったことは、米韓も軍事行動のルビコンを渡るかどうかということになる。中央日報によると、朴は金正恩を呼び捨てにしたばかりか、「狂人」に例えた。「金正恩の精神状態は統制不能」「金正恩の狂った核実験の敢行」と述べたのだ。韓国内では対北強硬論が台頭し始め、与党のセヌリ党内で核武装論が高まりを見せている。
次期大統領選候補の一人金武星は「韓米原子力協定の交渉などを通じ、原子力潜水艦の導入や潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発、米国の戦略核兵器の配備など、取り得る全ての方策を動員すべき時だ」と、Facebookに書き込んだ。米国の戦術核を再配備して、北と『恐怖の均衡』を取ろうとする意見だ。一方中央日報は社説で「北朝鮮の核武装は防げない段階まできた。韓半島(朝鮮半島)の非核化をもう維持できなくなったと解釈できる」と現況を分析。「北朝鮮の核開発に対して今まで防御的な立場で対処してきた政府の政策は限界に達した。北朝鮮の核に対するより強力な抑止力が求められる。『核には核で対応』するというレベルで、米国の戦術核を条件付きで韓半島に再配備する必要がある」と主張した。北大西洋条約機構(NATO)では、ドイツなど加盟国の空軍戦闘機に戦術核を搭載して作戦を展開できるように組織化されていることを見習えというのだ。しかし韓国政府はこうした動きにきわめて慎重だ。
連合通信によると政府関係者は、「これまで強調してきたように朝鮮半島に核があってはならず、核兵器のない世界のビジョンは朝鮮半島から始まらなければならない」と否定している。一方、韓国軍高官は初めて巡航ミサイルなど韓国独自の兵器を使って、平壌の金正恩が潜んでいる地域を地図から抹殺できる能力を独自に保持していることを明らかにし、これを「大量反撃報復」と名付けた。他方、米国はどうか。ホワイトハウスや国防総省があくまで“オプションの1つ”として、サージカル・ストライクを考えていないわけはないと思う。焦点は、国防長官・アシュトン・カーターが何を考えているかだ。カーターは過去に Time誌に北朝鮮空爆の実施を説いた論文を投稿、米政府部内でも古くから空爆論を唱えている。カーターは、精密誘導兵器を使用すれば北朝鮮の核施設への空爆は十分な成果を挙げられると読んだ。しかも放射能をまき散らさないで済むとの計算だったという。空爆を決行しても戦争に発展する可能性は高くないとも判断していたのだ。状況は、イスラエル空軍機がイラクのタムーズにあった原子力施設を、バビロン作戦(別名オペラ作戦)の作戦名で1981年6月7日に攻撃した武力行使事件と酷似している。
おそらくカーターの心中は「金正恩と核施設を攻撃するなら今しかない」との戦略がよぎっているのではないだろうか。つまり、現段階なら核ミサイルが実戦配備される状況になく、まだ北の核兵器による報復は不可能であるからだ。これが最後の空爆のチャンスであると考えているのであろう。問題はソウルが火の海になる可能性があることだ。大量の通常兵器の砲門はソウルに向けられており、これを壊滅させることが不可欠である。通常爆弾でもそれは可能とみている。問題は「そのルビコンを渡れるか」ということだ。金正恩は完全にオバマを見くびっており、残る4か月の任期では、軍事行動には出ないと読んでいるのだろう。しかし原子力空母ドナルド・レーガンを中心とする機動部隊は、巡航ミサイルだけでも500発の核を搭載可能であり、狂気の火遊びをしている金正恩はそこに気づいていないのだろう。日本もミサイル3発を排他的経済水域(EEZ)に撃ち込まれて、「核を持たず、作らず、持ち込ませず」の非核3原則維持などとは言ってられなくなるだろう。少なくとも「持ち込ませず」は困難な状況になりつつある。よりミサイル防衛体制を強化するために高高度防衛ミサイル(THAAD)を導入することも喫緊の課題だ。
こうした準戦時状態というような事態が生じつつあるのは、ことごとく中国の責任だろう。英国チェンバレンの融和策が、ヒトラーを増長させたように、甘い対応は独裁者を勢いづけるだけだということを分かっていない。3月の国連決議の際に筆者は「北は何の痛痒も感じまい」と予言したが、その通りだった。中朝国境の豆満江にかかる2つの橋は連日車両のラッシュが続いており、貿易量は制裁前を上回っているとの見方さえある。これは中国が金正恩に核爆弾製造を奨励しているようなものだ。北の崩壊は、中国自身の体制崩壊につながるという、基本戦略に凝り固まっているからだ。従って中国は、実効性のある国連決議には今後も常に反対という立場を貫くだろう。とりわけ北との取引に応じている中国企業を対象とする制裁には、金輪際応じないだろう。しかし、5回目の核爆発はジレンマも生じさせた。韓国や日本が米軍の核搬入を公然と認めるようになれば、中国自身の安保戦略を直撃するからだ。極東の軍事バランスの均衡は、中国不利の方向に崩れるのだ。
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