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2016-07-04 19:53
英国の「EU離脱」の真に意味するもの
森 敏光
元大使
今回英国民の行った「EU離脱」の決定は、メルケル独首相が声明で述べたように「欧州統合にとって分水嶺となる日」となるであろう。しかし、世界史的時間軸でとらえれば、この決定が真に意味するものは、第三次世界大戦への流れが動き始めたということかもしれない、との見方がある。勿論これは数十年といった時間軸で物事を考えていけば、ということであるが、いずれにしても事態は深刻である。
今回の英国の「EU離脱」決定に対して、独をはじめとするEU諸国は、強硬な立場で英国との交渉に臨む姿勢を鮮明にしている。将来的には独とイングランドとの対立に発展しかねない。歴史を振り返るまでもなく、独とイングランドの対立が意味するところは明らかであろう。EUに英国が加盟していることの意味合いは、それほど大きい。ISの問題をはじめとして、中東などで紛争の火種に事欠かない。第266代ローマ法王フランシスコ1世は「すでに第三次世界大戦ははじまっている」との趣旨を、累次にわたり述べている。ロシアも、シリアにおける軍事行動にみられるように、紛争にかかわるかもしれない。
キャメロン英首相は「EU離脱」を問う国民投票に先立ち、ISの最高指導者であるバグダディ容疑者とともに、ロシアのプーチン大統領の名を挙げて、EUへの残留を国民に訴えていた。これに対しプーチン大統領は、投票前には離脱に対する態度は一切明らかにせず、「これはEUと英国の問題だ」として抑制した態度を貫いていた。1997年3月のヘルシンキでの米ロ首脳会談に臨む クリントン大統領が、橋本総理に電話をかけ、「NATOの東方拡大をロシアにのませるために、G7(先進国首脳会議)へのロシアの参加を認めたい」とG7のG8化に理解を求めてきたことは周知のとおりである。しかし、その後NATOは更なる東方拡大を続け、ロシアはG8から追放された。
英国の「EU離脱」決定を契機に、ロシアに対するEU内の各国の立場の相違が表面化し、EUのロシアに対する制裁がそれほど遠くない将来緩和される可能性は排除できない。その意味で、「ロシアを利する」論に全く根拠がないわけではないが、おそらく事はそんなに単純ではないであろう。世界で本当に何が起こっており、何が起ころうとしているのかを見極めるのは、そう簡単ではない。そのうえで事態が深刻化することを回避するための努力が求められる。「国民投票のやり直し」を求める動きとか、離脱派政治家の「公約」反故とか、離脱派主導政治家の突然の党首選出馬回避とか、といったレベルの低い話に惑わされてはならない。
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