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2016-06-28 16:41
英国のEU離脱と日本の役割
松井 啓
ワールドウオッチャー、元大使
1917年11月のロシア革命は、ロマノフ王朝に終止符を打ち、1922年にソ連を成立させた。第二次世界大戦後には、次々と東欧諸国をソ連圏に組み入れ、国際連合では安全保障理事国となった。米ソの軍備競争が激化し、冷戦構造が本格化するなかで、西欧に社会主義が拡大するのを防ぐため、アメリカの支援のもとに対ソ軍事同盟NATOが結成された。独仏の不再戦を経済的に担保するために、1952年には西独とフランスを中核とするECSC(欧州石炭鉄鋼共同体)が設立された。ECSCは1958年にEEC(欧州経済共同体)となり、1967年にEC(欧州共同体)を経て、1993年にはEU(欧州連合)へと発展した。因みに、イギリスは、1973年にECに加盟したが、1999年に導入されたユーロは採用せず、ポンドを維持したままである。
今回の英国の国民投票によるEU離脱決定の背景には、ソ連邦の消滅によりヨーロッパ結束の意義が薄れたこと、かつての大英帝国の夢である「光栄ある孤立」に対する郷愁、EU官僚の基準や規制に対する不満、外国人移民や難民に対する反感、貧富の格差の拡大に対する不安などが根底にある。今回の国民投票では、古き良き時代を懐かしむ高齢者層の意識と統合とグローバル化に馴染んだ若年層の意識の違いが明確化した。政治家が耳障りの良いスローガンで国民感情を煽ったのも、民主主義の欠点である。しかしながら、周章狼狽の要はなかろう。EUもイギリスもお互いを必要としている。2年がかりの交渉で、離婚(離脱)ではなく、別居(緩い連合体)に至る可能性もあろう。すでにBregret(英国離脱後悔)の新語も出てきており、熱気を帯びていた離脱派も事の重大さに驚き、正気に戻ったようだ。
他方、欧米の弱体化の間隙をぬって、ロシアと中国が勢力拡大に虎視眈々としている。プーチンと習近平はわずか1週間の間に2回も首脳会談をしており(6月21日、ウズベキスタンでの上海協力機構(SCO)会議で、また25日、北京で)、中国の「一帯一路(新シルクロード)」構想とロシアの「ユーラシア経済連合」の擦り合わせを行っている。しかし、歴史が100年前のロシア革命時に戻ることができないのは当然である。貿易、金融、軍事、資源・エネルギー、地球環境問題等人類が共同で対処しなければならない問題が山積している。米国が「世界の警察官」を止め、内向きとなって他国の防衛に関心が薄くなっていることは、日本にとり深刻な問題である。日本は価値観を共有するG7の一員として世界の政治経済の課題解決に積極的に貢献していくべきである。それが日本自身のためでもある。
自衛隊を違憲とする「政策の違いを横に置いて」でも共産党と野合する民進党などの野党4党は、外交と防衛に関して全く基本的認識を欠いている。防衛力を持たなければ、日本はその隣国である中国、北朝鮮、ロシアなどと平和を維持できるという野党4党の思い込みは、警察が無くなれば犯罪が起きないと錯覚しているに等しい。英国では投票年齢以下の青少年についても、「未来を担う世代の意見を聞くべきだ」とのキャンペーンを始めたと報道されている。7月の参議院選は、国民の選挙権年齢が18歳に下がってからの初めての選挙である。日本という国のあり方、世界での立ち位置について、これら若年層の参加も得て、国民全体で冷静に熟慮すべき時に至っている。
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