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2016-04-15 06:47
朴は「反日カード」を切らないだろう
杉浦 正章
政治評論家
韓国の総選挙で与党過半数割れの大番狂わせがあったから、日韓慰安婦合意の挫折など日韓関係に大きな影響が出るという見方が生じているが、果たしてそうだろうか。物事はそう短絡的に見ない方が良い。大統領・朴槿恵は政権担当4年目に入っても依然4割台の高支持率を維持しており、基盤の弱体化は当面支持率で補って行くだろう。韓国を取り巻く情勢は、北朝鮮の核・ミサイル実験で緊迫化の一途をたどっており、3月31日の日米韓トップ会談での安保連携合意の構図の重要性に変化はない。朴がこれを停滞させることはないだろう。しかし、韓国側が努力を約束した大使館前の慰安婦像撤去など、慰安婦合意の具体化には影を落とさざるを得まい。
総選挙の展望について大統領府は、完全に読み間違えていたようだ。朴側近の中にはセヌリ党が300議席の過半数割れの143-145議席になると予想する向きがいたようだが、マイナス25議席の122議席まで落ちるとは予想していなかった。セヌリ党幹部に到っては180議席を予想、全く時流の変化を読めていなかった。結果を左右したものは若年層の票であった。大学を出ても職はなく、若者の就職率は極めて低い。貧富の差は開く一方だ。この不満が野党への投票行動につながったのだ。韓国国会は野党の「共に民主党」が123議席で第1党に躍り出たものの過半数には達せず、「国民の党」が38議席でキャスチングボートを握った形となった。大統領府は複雑な議会対策を余儀なくされるだろう。対日関係で好都合なのは、朴も日本政府も慰安婦問題が総選挙の争点化することを避け、刺激的な言動を控えたことであった。この結果慰安婦合意に野党は反対であるものの、公約に書いて戦うまでに到らなかったのだ。
しかし、朴が対議会対策においてはレイムダック化の様相を色濃くしてゆくことは避けられまい。韓国では任期が1年を余す段階に入ってレイムダック化するのが普通であるが、1年8か月を残してレイムダック化は珍しい。レイムダック化した大統領は過去に反日カードを切って、しのぐという動きに出るケースが多かった。李明博のように竹島上陸というパフォーマンスをするのだ。政権末期の反日がお家芸の国である。しかし朴が反日に戻るかと言えば、そうとも言えない。なぜなら就任以来3年という長期にわたる「告げ口外交」がもたらしたものは、対日経済関係の悪化と、目を覆わんばかりの不況であった。昨年12月の慰安婦合意は、対中関係を第一義に据えていた朴が、対日米関係の重視に戻ったことを意味する。歴史認識に固執した“代償”は極めて甚大であったことは間違いない。これは自ら選んだ大転換であり、容易に反転できる構図にはない。安倍と朴はおりにふれ電話会談するに到り、その関係良好化の頂点が、対北朝鮮をめぐって日米韓首脳会談で確認した極東安保で協調強化の合意である。今後北は、それこそ何をするか分からない異常な指導者の下で、緊張感をあおり続ける事が予想され、軍事協力の必要は増加しこそすれ、減退する流れにない。
逆に言えば、この極東安保の構図が慰安婦問題を律している側面があるのだ。したがって議会が過半数を割ったからといって、朴がそれではすぐ反日というわけにはいかないのだ。しかし、現実問題として慰安婦問題での象徴である慰安婦像の撤去が促進されるかというと、そう簡単ではない。安倍が撤去なしに慰安婦支援の団体に10億円を拠出することも考えられまい。したがって朴政権による慰安婦団体への説得工作の可否が、依然として焦点となる。合意の具体化が長期化することは避けられないものとみられる。朴は自分の任期中に合意を達成する努力を重ねるものとみられる。一方で、日韓安保関係では北朝鮮の核・ミサイルなどについて機密情報を共有できる軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の締結などが課題だが、現在生じている促進の機運を双方とも維持発展させなければなるまい。基本的には信頼関係の構築を図りつつ、ガラス細工のような日韓関係を発展させてゆく必要があるのだ。
朴のレームダック化は次期大統領選への動きを公然化させる可能性が強い。ここで問題なのが、日本にとってばかりか韓国国民にとっても最悪の候補である国連事務総長潘基文の登場だ。今年末の任期切れをいいことに、早くも事前運動に精を出している。先の朴訪米に際しては、4日間で7回も朴と会談や接触をしている。セヌリ党に有力候補がいないことをよいことに、露骨な「後継」への売り込みだ。しかし、潘基文の国連事務総長としての評判は掛け値なしで史上最悪だ。米上院外交委員長コーカーは4月13日、米議会公聴会で国連が平和維持活動(PKO)の要員らによる性的暴力が多発している問題に対処できていないとして、「いかにして国連の無能な指導者に我慢するかが問題なのだ」と酷評した。国連内部の人事も、韓国人ばかりを重用し、国連職員組合が「親類縁者や友人を頼った求職」を批判する文書を採択する事態まで生じた。ところが韓国民は、これらの愚行を知らない。むしろ英雄視しており、実家は観光コースになっている。次期大統領候補としては最高の21%の支持率だ。狡猾にも韓国内の評判を狙って、対日関係でも反日すれすれの国連外交を繰り返している。公平であるべき事務総長としてあるまじき行為だ。このような人物が大統領になった場合に極東情勢に与える影響は極めて憂慮されるところだろう。
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