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2016-03-29 06:54
安倍外交が内政密着型で再始動する
杉浦 正章
政治評論家
予算成立と安保法施行により首相・安倍晋三がその姿勢を大きく外交へと転換させる。伊勢志摩サミット(G7)を軸に対欧米外交、対露外交、対中韓など近隣外交を展開、この成果をもとに夏の国政選挙で国民の信を問う形となる。サミットでは世界経済を牽引してきた新興国経済の低迷で、G7が再び世界経済のリーダー役を演じなければならなくなり、サミットはテロ対策と並んでかってなく経済重視型となり、議長役としても安倍のリードが極めて重要になる。そして財政出動で景気を刺激すべきとの世界の潮流は、安倍に消費増税再延期の決断をしやすくする。まさに外交が内政に影響し、内政が外交を動かすという状況へと突入する。外交日程は激動の世界情勢を反映して極めて立て込んでいる。3月31日から米ワシントンで開かれる核安全サミットを機会に安倍はオバマや朴槿恵と会談する。4月は5日から3日間の日程でウクライナ大統領・ポロシェンコが来日する。中旬には露外相・ラブロフが来日して外相・岸田文男と会談する。5月26日・27日のG7に先だって安倍は4月下旬からの大型連休中に欧州のG7諸国を歴訪する。安倍は訪欧に合わせて、ロシアを訪問、プーチンと会談する方向で調整もしている。
サミットはもともと1975年石油危機からの建て直しを目指して仏ランブイエで行われ、筆者は三木武夫が出席した同サミットを取材している貴重なる骨董品である。以来G7は経済が中心だが、冷戦を反映して対ソけん制の意味合いも濃厚であった。今回のサミットも、欧州におけるテロの頻発で政治サミットの色彩も強いが、同時に待ったなしの対応が迫られるのが新興国経済の低迷で、世界経済の牽引役としての役割である。2月の上海における20か国財務相・中央銀行総裁会議(G20)は財政刺激策を各国に求めており、この潮流は変わらないものとみられる。日本は消費税の8%への引き上げで生じた経済不振からの脱却を明示しなければならず、その方策として安倍が消費増税再延期と財政出動を選択する公算は大きい。G7全体としては財政出動による国際協調の構築を打ち出すものとみられる。テロ対策は当然盛り込まれるが、極東におけるサミットであるからこそ「核テロどう喝国家」北朝鮮の存在についても安倍は警鐘を鳴らし、非難して対策に盛り込むべきであろう。もちろんこれに先立つ核サミットでも同様の主張をする必要がある。
安倍はサミットに向けて主催国トップがそうしたように、参加国を廻って事前の調整をすることになる。問題はこれと合わせてソチでプーチンと会おうとしていることに米国が渋っている点だ。オバマは2月の安倍との電話会談で訪露をサミット後にするよう要望したが、安倍は対露外交の重要性を指摘して断った。ホワイトハウスはカチンときているに違いないが、安倍は国家安全保障局長・谷内正太郎をワシントンに急きょ派遣、3月1日に大統領補佐官・ライスと会談させたが、内容は一切漏れていない。しかしその後3月22日になって、ウクライナのポロシェンコの来日が発表されたのは怪しい。ポロシェンコは4月5日から3日間公式訪問する。日本ではウクライナ問題など関心が薄く、新聞はまだ気が付いていないが、これがオバマ説得のカギではないかと思う。支持率わずか17%で国内でぼろくそに言われている大統領でも利用価値があるのだ。というのも米欧諸国に対して、日本もウクライナ問題ではG7と歩調を合わせているというアリバイになるからだ。恐らく安倍は歓待して何らかの経済援助を行うであろうし、ロシアが併合したクリミア問題でも、ウクライナ支持を表明するだろう。逆にポロシェンコが北方領土に対する日本の主張を支持する可能性も高い。ネットによるとロシアの高等経済学院の専門家、アンドレイ・フェシュンは「プロシェンコ大統領の訪日で安倍氏は米国の激しい怒りを和らげ、自らの政治的柔軟性をそれとなくアピールしようとしているのかもしれない。ほらね。私はやっぱりロシアに行きますけど、その代わりウクライナ大統領を招きましたよ、ということなのではないだろうか」と看破している。
こうして安倍は米ロ両国を意識した、巧みといえば巧み、見え見えといえば見え見えの外交を展開する流れのようだ。ここに来て、早くもロシアはけん制に出た。北方領土に海軍基地を設営するなどと言い出したのだ。安倍はプーチン来日を実現して、領土問題を一歩でも前進させたい考えのようだが、ここはアメリカが怒ろうがどうしようが、「根回し済みの自主外交」を貫くべき時ではないかと思う。一方、安保法施行は安倍の外交的ポジションを強化しこそすれ、弱めることはあるまい。日本が集団的自衛権の行使に前向きになれば欧米諸国にとってこれほど力強いことはない。しかし、よほどのことがない限り中東派兵などあり得ないことははっきりさせる必要がある。当面はもっぱら北朝鮮対策に集団的自衛権は行使されるべきであり、中東やアフリカに自衛隊を派遣して戦死者などを出そうものなら、この国のマスコミは気が狂ったように安倍批判を展開する。南スーダンなどへの自衛隊派遣に新法適用などは金輪際行うべきではない。北朝鮮の核ミサイルへの備えとしては安保法は極めて強い説得力があり、選挙対策には持ってこいだ。野党の安保法破棄の動きは今後5月9日の朝鮮労働党大会に向けて暴発を続ける金正恩を利することになり、これを批判すれば願ってもない選挙対策になる。
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