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2016-03-07 10:28
「力は正義」の中国を包囲する日米豪印の環
鍋嶋 敬三
評論家
オバマ米大統領が南シナ海で力を背景に領土主権を強硬に主張する中国に対して、「中国は『力は正義なり』という古くさいやり方に訴えている」と厳しく批判した。アジアのテレビ局インタビュー(2月16日収録)で語った。中国はパラセル諸島への地対空ミサイル配備に続き、スプラトリー諸島にもレーダーサイトを建設、南シナ海で防空識別圏(ADIZ)設定に確実にステップを踏み出した。オバマ氏は2015年9月15日の米中首脳会談後に「習主席が軍事化を望まないと確約した。米国は中国が誠実かどうか、試し続ける」と言明した。国際法や国際規範に従わない中国への強い不信感がうかがわれる。シンガポールのストレーツ・タイムズ紙は社説で、「我が道を行く」中国のやり方が世界を不安定にし、自らの立場も損なっているとして、「力は正義」の考えを改めるよう主張した。
しかし、中国の軍拡はとどまるところを知らない。3月5日の全国人民代表大会で2016年度国防予算が前年比7.6%増と発表、李首相は海空軍を重視した「海洋強国」の建設を宣言した。中国経済の減速を受けて二桁成長はさすがに抑えたが、軍事費の内訳は非公表、不透明さは相変わらずである。中国の急速な軍事力近代化と戦略意図の不明なことから、周辺各国の軍拡が加速している。2月25日公表のオーストラリア国防白書は緊迫する南シナ海情勢を反映した画期的なものになった。2020/21年度までに国防費の対国内総生産(GDP)比を2%に引き上げる。500億豪ドル(4兆2000億円)を投じて新型潜水艦12隻を建造。共同開発をめぐって日本、ドイツ、フランスが競い合っている。ローウィ研究所のM.フリラブ所長は「オーストラリアにとって安価な安全保障の時代は終わったのだ」と強力な国防体制の必要性を強調した(同紙)。
オーストラリアは安全保障関係で同盟国の米国、最大の貿易相手国の中国との板挟みになるジレンマを抱えているが、これは同国に限った問題ではない。南シナ海の「内海化」を意図し、米国との覇権争いに突き進む中国にどう対応するかは、地域全体の問題である。日豪関係は急速に深まってきた。2015年12月、ターンブル首相を迎えた安倍晋三首相との会談で「特別な戦略的パートナーシップ」を確認、2016年2月には、外相会談で安保・防衛協力の強化で合意、日豪、日印、日豪印の外務次官協議を立て続けに開き、3ヵ国の協力を前進させた。インドで3月2日に講演したハリス米太平洋軍司令官は米印日豪4ヵ国による安全保障の枠組み創設を提案した。さらに、米印日による年次海軍合同演習「マラバール」をインドから遠く離れた南シナ海に近いフィリピン近海で行うことも明らかにしている。
この背景にはオバマ大統領のインド訪問(2015年1月)時に署名した「アジア、太平洋、インド洋地域の共同戦略ビジョン」がある。インドはこの時、「マラバール」演習に日本を恒久的な参加国として招いたのだ。アフリカに至るインド洋、そしてアジア、太平洋は米太平洋艦隊の守備範囲であり、日米豪印の提携強化は東シナ海、南シナ海を囲い込む形になる。中国の習指導部が経済力にものを言わせて軍事力増強を図り、力による進出をしゃにむに進めた結果、アジア諸国が警戒を強めフィリピン、ベトナムなどの軍拡を触発した。また、地域の不安定化に対して米国による同盟国、友好国との連携強化につながった。北朝鮮の核兵器、ミサイル開発は国連の制裁強化と国際社会で一層の孤立化を招いた。日米ミサイル防衛システムの構築はその産物だ。「力は正義なり」を過信してまいた種は自らが刈り取らねばならない。
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