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2016-02-22 10:39
中国のA2/AD戦略推進がいっそう鮮明に
鍋嶋 敬三
評論家
中国による南シナ海軍事化の動きに対して、米国内で懸念が急速に強まってきた。パラセル(中国名:西沙)諸島ウッディ島への地対空ミサイル(SAM)の配備が、米国・ASEAN首脳会議(2月15、16日)の直後に衛星写真で明るみに出た。米政府は早くから偵察衛星でつかんでいたはずである。同諸島は中国南部・海南島から約300km、領有権紛争中のベトナム政府の抗議に対して中国は主権をたてに突っぱねた。パラセル諸島へのSAM配備は南シナ海情勢に影響する戦略的な意味がある。フィリピンやマレーシアにより近いスプラトリー(南沙)諸島へのSAM配備の足掛かりになるとの見方が専門家の間で出ている。岩礁を埋め立てた人工島での滑走路建設、戦闘機やミサイルの配備は米軍に対する接近阻止/領域拒否(A2/AD)の能力を飛躍的に向上させる。
中国の習国家主席は2015年9月、スプラトリー諸島の軍事化を進めないことを言明しながら、着々と軍事化へ布石してきた。米・ASEAN首脳会議の共同声明に「南シナ海」のキーワードがなかった。わずか3ヶ月前にマレーシアで開かれた米・ASEANサミットでは「南シナ海における関係国の行動宣言」を再確認していた。親中国で今年のASEAN議長国のラオスやカンボジアの強い抵抗でキーワードが落とされたのであろう。オバマ大統領は会議後の記者会見で「南シナ海の緊張を和らげるため、紛争地域の軍事化の中止を含む平和的解決の方策を話し合った」と語ったが、その矢先のミサイル配備である。中国は米国の主張に全く耳を貸すつもりがないことがはっきりした。
中国の戦略的狙いはなにか? 戦略国際問題研究所(CSIS)のM・グリーン上級副所長ら米専門家3人の論評によれば、ウッディ島への配備は戦略的により重要なスプラトリー諸島への配備の「モデル」とされる。そこで人工島の造成が進むファイアリークロス、ミスチーフ、スビ各礁への地対空ミサイル、レーダーシステム、軍用機、空母キラーと言われる対艦ミサイル、そして水上艦、潜水艦の配備が続くと想定される。中国の行動は接近阻止の傘と兵力投射能力を併せ備えようという中国指導部の意図を示すものと分析。東シナ海と同じように南シナ海でも防空識別圏(ADIZ)の設定が数ヶ月から数年内に予想されると見ている。アメリカン・エンタプライズ研究所(AEI)のM・オースリン日本研究部長はウッディ島が南シナ海全域をカバーする軍事基地のネットワーク化に向けた「理想的な足掛かり」と見なしている。中国の目標は、この地域のすべての国に、世界経済にとって死活的に重要な地域における「中国の支配的な地位」を受け入れさせることだという。既に地域の「力の均衡」は急速に変化しつつあり、「米国の戦略にとって深刻な打撃になるだろう」と同氏は懸念している。
ベトナムのズン首相は首脳会議の際、オバマ大統領に「軍事化に対し有効な行動」を求めた。後手後手に回るオバマ政権の対中外交に強いいら立ちを示した形だ。ケリー国務長官は2月17日の記者会見で「重大な懸念」を示し、近く中国と「真剣な話し合い」をすると語った。首脳会談の成果を発表したオバマ大統領の記者会見でASEANや南シナ海についての質問は一切出なかった。死去した最高裁判事の後任人事、大統領選挙の予備選、シリア、リビアなどに集中し、米国のメデイアはオバマ政権のアジア・リバランス(再均衡)政策に無関心ぶりを示した。世論は外交の推進力にもなり、一方で足も引っ張る。このような米国の国内状況は、対中戦略におけるオバマ氏の強い意思の欠如もあって米国の外交力を削ぎ、中国が軽く見る一つの要因になっているかもしれない。
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